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幕末太陽傳 (1957)

監督
川島雄三
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4.12 / 評価:217件

時代劇コメディを代表する傑作

今回取り上げるのは1957年の日活映画『幕末太陽傳』。同年のキネマ旬報ベストテンでは「蜘蛛巣城」と同じ順位の、日本映画の4位に選ばれた。現在の北品川駅近くであった品川宿の遊女屋「相模屋」を舞台に、そこで働く人々や客、幕末の志士たちなど、多くの人々が交錯する物語で、日本映画のコメディ最高峰として今も多くのファンがいる作品である。
石原裕次郎が出演した映画のレビューを書き込むのは「黒部の太陽」に続いて2作目だ。ただし主役は裕次郎演じる高杉晋作ではなく、フランキー堺演じる「居残り佐平次」と呼ばれる金無し男である。タイトルにある「太陽」とは太陽族のことで、本作に出演して「太陽族映画」でおなじみの俳優といえば、裕次郎を筆頭に、南田洋子、小林旭、二谷英明、岡田真澄らがいる。

冒頭でタイトルバックと共に現代(昭和32年頃)の品川宿の風景が映され、日本人女性と米兵が並んで歩く姿が時代を感じさせる。時代は幕末にさかのぼり、明治維新まで数年の時代だと紹介される(ナレーションは加藤武)。最初は人々のやり取りが現代と異なるので戸惑うが、佐平次のキャラが分かってくるにつれて、一気に面白くなっていく。
佐平次はお大尽のような振る舞いで相模屋で豪遊するが実は無一文。巧みな弁舌でごまかし続けるが、ついに金がないのがバレて働いて返せと、物置のような部屋に押し込められる。接客業の手伝いを始めるが、無類のフットワークの軽さと明るさ、そしてハッタリで様々なトラブルを巧みに解決し、遊女たちや客の心をつかんでいくのがストーリーの柱である。

映画にからんでくる実際の事件が、長州藩の高杉らが起こした御殿山の英国領事館焼き討ち事件である。僕がこの事件を知ったのが、小さい頃に読んだ「血風!新選組」という歴史マンガであった。「死傷者も目撃者もなかったので、幕府は失火と判断して大きな騒ぎにはならなかった。これが高杉らの放火だと分かったのはずっと後のことである」という解説文を覚えている。
事件を映像で見たのは大河ドラマ「花神」で、役人の目を逃れるために、長州の志士が自作の爆弾を食べてしまう場面は『幕末太陽傳』にも出てきた。高杉は海外留学の際に列強の支配を受けた上海を見ており、不平等条約を押し付けられた日本が上海の轍を踏まないという意思表明のためにこの事件を起こした。これは映画を観て初めて知ったことである。

観終わって思い浮かんだビジュアルは「閻魔大王」である。僕は東京都足立区に住んでいるが、北千住にある勝専寺という寺に閻魔様の像があり、毎年7月に「えんま開き」としてその像が公開され、僕も見に行ったことがある。その時の閻魔様が、地獄に落ちた佐平次の舌を引っこ抜こうと待ち構えるが、逆に佐平次にやり込められて・・・、そんな場面を想像した。
佐平次は結核を患っており、ラスト近くでは病気が悪化して得意の弁舌も衰えてしまう。映画の最後は墓場の場面であり、どうしても佐平次も先は長くないなと思える。ホラ吹きの佐平次を始め、客を手玉に取る遊女のおそめ(左幸子)やこはる(南田洋子)、テロ事件を起こす長州志士といった面々も、死んで極楽に行くとは思えず、どう考えても地獄行きであろう。

僕がホームグラウンドにしている北千住は、品川宿と並んで江戸四宿の一つであり、たくさんの飯盛女(遊女)が働いていた。金蔵寺というお寺には遊女たちの供養塔が残っている。先に書いた「えんま開き」は江戸時代から行われていたそうで、遊女の中には閻魔様の像を見た人もいるかも知れない。苦界に身を置く遊女は閻魔様と対面して何を思っただろうか。
本作は爆笑ギャグ満載のコメディであるが、佐平次が時おり激しい咳をして周りの人から心配され、心中未遂と怪談めいた仕返し(このギャクは最高だ)が出てくるなど、あの世を連想させる場面が出てくる。これが僕の中で本作と、実際に見た閻魔大王を結び付けた。歩き慣れた町の歴史において、そこで交錯する人々の思いや生死に想像力の翼を働かせてみるのも一興である。

最大のスペクタクルシーンは、妍を競うおそめとこはるが取っ組み合いの喧嘩をする場面であろう。カメラは相模屋の外から、1階から2階にかけて展開する喧嘩の顛末を写し続け、まるで新選組の池田屋事件のようだ。この二人は同時に佐平次に惚れ、ラスト近くでは仲良く寄り添ってうたた寝している。あれだけの喧嘩をした二人が・・・と思うとおかしい。
最後に「佐平次は地獄に落ちる」と書いたが、劇中で良いこともやっている。相模屋の二代目・徳三郎(梅野泰靖)と女中のおひさ(芦川いづみ)が恋仲になったとき、二人が駆け落ちする手筈を整え、船に同乗する長州志士に「二人の祝言を挙げてやって下さい」と頼む。地獄の閻魔様もこの善行に免じて、佐平次の罪を少しは免じてくれるかも知れない。

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