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喜びも悲しみも幾歳月 (1957)

監督
木下恵介
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4.15 / 評価:59件

日本全国の灯台を巡るカラー大作

今回取り上げるのは、1957年の松竹映画『喜びも悲しみも幾歳月』。木下恵介監督の作品レビューを書き込むのは「二十四の瞳」に続いて2作目だ。1986年の6月28日には、現代編の「新・喜びも悲しみも幾歳月」が公開され、それに合わせて6月23日にTBSの月曜ロードショーでテレビ放映された。
この時は木下監督がテレビに登場して解説の荻昌弘と対談したが、2時間42分もある長い映画を2時間弱の枠で放映したので、1時間近くカットされた事になる。ちなみにYAHOO!映画ではオリジナルの方にも「新・喜びも・・・」のポスターが使われている。

♪おいら岬の灯台守は、妻と二人で沖行く船の、無事を祈って灯をかざす、灯をかざす・・・という歌詞の主題歌が有名で、映画の全編で流れる。日本映画の映画音楽といえば「生きる」の「ゴンドラの唄」とともに、この歌を思い出す人は多いだろう。他に劇中で歌われる歌で僕が確認できたのは、藤山一郎の「酒は涙か溜息か」と美ち奴の「あゝそれなのに」がある。
映画に登場する灯台で僕が行ったことがあるのは、静岡県の御前崎灯台だけである。僕が行った時は、天気は良かったが突風が吹いており、ここが駿河湾と遠州灘の境界なのだと妙に納得したのを覚えている。
ここは終戦時とラストシーン(主人公夫婦が結婚してエジプトに旅立つ娘を見送る)という、最も重要な場面の舞台となる。戦争末期では敵機を欺くため藪のような覆いが被された姿を見せ、何基も登場する灯台の中でもキャラの立った存在である。

映画は第1部と第2部に分かれ、第1部は昭和7年から始まる戦前パート、第2部は戦中と戦後パートになる。戦前から終戦にかけては、上海事変や国際連盟脱退、そして太平洋戦争勃発など日本をめぐる情勢が字幕で紹介される。第1部はそんなきな臭い情勢に関係なく、灯台守の職務に励む有沢四郎(佐田啓二)ときよ子(高峰秀子)夫妻の姿が描かれる。
最も字幕が活躍するのは戦中パートで、上空から飛来する敵機の視点で「何月何日、犬吠埼灯台の台長が殉職した」という字幕が、戦死者名簿のように幾つも表示される。それに先立って、四郎の部下が「出征から逃れたくて灯台守になったのだろう」と罵られて喧嘩になる場面があるが、実は灯台は敵機にとっては格好の標的になるため、灯台守の殉職が非常に多かったのだ。

重苦しいだけでなく笑える場面もある。最初の方で東京湾の観音崎灯台に狂った女が入ってきて、きよ子がギャーッと悲鳴を上げるシーン。いきなりホラー映画のような場面で笑ってしまう。次にきよ子に因縁のある女性が灯台を訪れ、ここで飛び降りて死んでやると喚く。
どんな事情かというと、きよ子の故郷である信州には彼女を好いている男性がいたが、きよ子は1回のお見合いだけで四郎と結婚してしまった。フラれた男性を慕っていた女性はそれが許せず、きよ子に恨み言を言いたくてわざわざ灯台に乗り込んできたのだ。ホラーの次は昼ドラかよと思って笑ったが、高峰さんほどの美人ならば複数の男に惚れられるのも無理ないと納得してしまった。

次に先に述べた四郎の部下のエピソードは、佐渡島の弾埼灯台が舞台となる。部下から経緯を聞いた四郎は、自分たちの仕事を貶されるのは許せぬと、部下を殴った者の家に乗り込む。その男は出征を控えていて、盛大な送別会の最中だった。
四郎は「よく来てくれた。どうぞどうぞ」と宴席の上座に招かれ、やり返すどころか酒を勧められて泥酔してしまう。ぶっ倒れた有沢をきよ子の元へ送りとどけた部下は、いつしか悔しい気持ちが消えていた。戦時中の重苦しさを、逆に笑いに持って行く場面である。

有沢一家が転勤するたびに日本地図が表示され、日本列島の海岸線の複雑さを思い知らされる。灯台のある場所はどこも日本の先端と言ってよく、交通の不便な僻地が多い。北海道の石狩灯台で印象的なのはソリを付けて雪上を走る幌馬車で、まるで西部劇の一場面である。ここでは二人の子供の誕生と、同僚の妻の病死という二つの真逆なエピソードが描かれる。
北海道の次に勤務するのは長崎県・五島列島の女島灯台で、外界から隔絶された孤島である。ストレスの多い環境で次第に些細な事で夫婦喧嘩になり、ついにきよ子は子供たちを連れて島を出て別居してしまう。きよ子はただ夫に従って耐え忍ぶだけの妻ではなく、けっこう言いたい事を言う。観ていて逆にホッとするシーンである。

最も悲しいエピソードは、長男・光太郎(中村嘉葎雄)の不幸であろう。家族そろって苦しい戦争を乗り越えてきただけに、不良に刺されて呆気なく死ぬという最期があまりにも虚しい。
今わの際にきよ子と会話を交わすことができ、「灯台の明かりが頭の中でグルグル回っている・・・」の言葉を最後に眠るように息を引き取る。残された姉・雪乃(有沢正子)には、光太郎の分まで幸せを掴んでほしいと願うほかはない。

詳細評価

物語
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