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佐々木小次郎 前篇

cyborg_she_loves

5.0

佐々木小次郎を主題とした名作

宮本武蔵を主題とした映画やテレビドラマは無数にある中で、佐々木小次郎の方を主題とした数少ない貴重な映画のひとつです。  VHS版はありますが2021年現在のところDVD化はされておらず、視聴困難な作品。でも、映画史の闇の中に埋もれさせてしまうにはあまりにもったいない名作だと思います。  1957年公開のモノクロ映画。しかし既発売のVHS版でも映像は十分に綺麗です。今後デジタルリマスターなどされればもっと見やすくなるでしょう。  戦後日本文芸界の重鎮であり、昭和後期の30年以上にわたって直木賞選考委員を勤めた村上元三が、戦後まもなく朝日新聞に連載した小説「佐々木小次郎」が原作です。  メガホンを取ったのは、高倉健主演の「昭和残侠伝」シリーズで人気を博した佐伯満。時代劇も数多く残していますが、むしろ仁侠映画の方で高い評価を得た人ですね。  佐々木小次郎といえば、巌流島の決闘で宮本武蔵に負けたという一事だけが有名で、それ以外のことはほとんど知られていないという、いわば宮本武蔵の引き立て役みたいな受け取り方しかそれまでされてこなかった人でした。  その小次郎の方に光を当てた原作小説ですが、すいません私は原作の方は読んだことないので、この映画がどの程度原作に忠実かは判断できません。  あれこれ調べてみると、そもそも佐々木小次郎という人物自体、実在した人であることは確実であるものの、その生涯の詳細については不明な点が多いようで、村上の原作も、史実の忠実な再現というよりは、村上の豊かな想像力の産物であると考えた方がいいようです。  だからこの映画も、佐々木小次郎の忠実な伝記ではありません。  しかし、武蔵に負けたということしか知られていない人にも実はこういうドラマが隠れていたかも知れないという想像を刺激してくれる作品として見ていると、これはなかなか面白いです。  この映画の小次郎は、無類の剣豪であるにもかかわらず誰からも正当に評価されないことに苦悩し続け、さらに、剣の道に精進する以上に、愛する女性のためなら命すら投げ出す覚悟を惜しまない、実に人情味豊かな人物として描かれています。  小次郎役の東千代之介さんは、ちょっとナヨッとした若旦那風の美男子で、日本舞踊の家元でもある人。いかにも愛する女を追って地の果てまで行くという感じのするキャラを見事に演じておられます。  ただ、殺陣の方は少々切れ味が悪いというか、武蔵に倒されるまでは負け知らずというような剣豪にはあんまり見えませんでしたが、まあいいっか。  対する宮本武蔵を演ずるのは片岡知恵蔵さん。生涯に何度も武蔵を演じられたハマリ役者です。熊かライオンかなんかかと見まごうようないかつい風体で、こいつが相手じゃそりゃ勝てんわなあ、とか余計なこと思ったり。  ともかく、今はあまり知られていないけど、ストーリー的にも映像的にもしっかりと作られた名作だと私は思います。ぜひDVD化してほしいものです。

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