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炎上

炎上

99

kor********

5.0

ネタバレ青年の罪と罰

過去と現在を素早く切り替える市川昆監督ならではのテンポの良さは本作でも健在で、細かいカット割りを積み重ねた映像のリズム感は岡本喜八と並び日本映画界でも群を抜く観易さと個性を生んでいると感じる。 父も魅了された金閣寺の美しさに憑りつかれた“どもり”の青年。周囲から冷たい視線を浴びせられ、純粋無垢な青年かと思いきや、内情は意地汚さや強き者への反抗で淀んでいた。唯一善の心で接してくれていた老師も、正直に接してくれていた同級生も、人間の表と裏の顔を見ることにより、彼はこれから歩む長き人生を悲観してしまう。 「偽善は自分を救うためだけ」そう考えれば、他人の視線や優しき手は輝きを失ってしまう。しかし、金閣寺だけは違った。「金が集まる寺」と揶揄されようが、その輝きだけは自らの手で空襲からでも守ろうとさえ思えた。寺は彼に罵声を浴びせなければ、救いの手も差し伸べない。でも、それでいいのだ。 寺の美しさを守るために赤ん坊を殺し、老師や友の裏切りに嘆き、身を寄せるのは美しきあの場所。いつしか女を抱きたいという欲望のように、この神々しいくらいに美しいモノを独り占めしたいと思ってしまう。 強い自尊心に駆られた精神と、国宝とされる金閣寺が灰に散っていく様を重ねる非道徳的な発想がまず素晴らしい。さすが三島由紀夫と称賛したい。モノクロ映像で燃え上がる金粉が残酷であるが美しさに覆われ、自我の崩壊が導く結末は、呪縛に憑りつかれてしまった者の必然ともいえる終焉。 肉体と同じく築き上げられた建築物もいずれ灰となり、その物体が崩れる、壊れることを「死」と呼ぶのなら、彼は自らの手で愛したものを殺した罰として、誰にも手を合わされない孤独な灰となる。

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