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キクとイサム (1959)

監督
今井正
  • みたいムービー 11
  • みたログ 46

3.58 / 評価:19件

自分の中にもある差別意識と偽善者の血

  • ser******** さん
  • 2009年1月30日 16時17分
  • 閲覧数 852
  • 役立ち度 14
    • 総合評価
    • ★★★★★

10年前、NYで暮らしていた頃、通りがかった若造に「チノ」という言葉をかけられキレかかったことがある。彼らがいうチノ、というのはいわゆる中国人、という悪口だ。彼らから見ればまさに黄色人種=中国人、という概念が強いわけで、そやつもこちらの事をそー思ってからかったんだろうが、こちトラ日本人じゃ!訂正せい!っていう意気込みだったんでしょーな。まだジャップと言われたほうが嬉しかったのか(笑)
だが後でハッとした。彼らの差別意識に対してではない。自分の中にある中国人への《差別意識》にである。確かに当時チャイナタウンに出かけた時には辟易した。彼らの無作法な姿をバーガーキングでみた時には、
「こいつらだけには間違えられたくない」
と正直に思ったものだ。なんせバーガー頼まずに中華食ってんだよ、店内で(爆)。しかも一度頼んだらフリーのジュース、ガバガバ飲んで。正直彼らと同胞、と思われるだけで恥ずかしいったらない。でも同時にそんな意識をいつの間にか《無意識》に抱いている自分の醜さに気づき、愕然としたものだ。
正直、その《経験》がなかったら私は自分の中の偽善者の姿に気づいていなかったのかもしれない。

今や日本では《ハーフ》は花盛りだ。白人、黒人、その他いろいろ。昔に比べたらその差別に対するイメージは希薄になった。あくまでも《建前》は。だがそれがひとたび地下に潜れば、彼らに対する罵詈雑言がまるでゴミの山の様に堆く積まれている。特に在日や東アジアの人間に対する悪意は凄まじい。そしてそんな悪意を吐き出す人間達は世間ではまさに善人ヅラをした《庶民》という怪物達である。いかに人間が表と裏で違うのかを見ているようで正直ウザい。そのくせ、こんな事を書く自分の中にもあるそんな《血》。

「キクとイサム」は日本人と黒人の米兵の間に生まれた二人の子供をめぐる物語。俗に彼らを「クロンボ」と言っていた時代の物語だ。今井正、と聞いてすぐにも思い出すのはこの映画、というほど好きな映画なのだが久しぶりに見直して仰天、再び自分の観賞後の印象が違う事に気づいた。差別にめげず健気に生きるハーフの少女、という感動的な部分や北林谷栄の上手すぎるお婆ちゃんの存在に気をとられがちなこの作品、今見みるとこれだけの年月が経っても変わらぬ庶民の《偽善》に愕然とするのだ。

東北の片田舎。差別意識、というより固定観念から逸脱出来ない風潮が残っているであろうという事は想像に難くない。だが、彼らのリアリティが強ければ強いほど浮かび上がる言葉の辛辣さに段々と怒りがこみ上げてくる。彼らにとってそれは普通の言葉だが、それがどんなにこの少女に突き刺さっているか。それでもガタイのデカイ女の子はそ知らぬ顔で生きている・・・はずだった。だが、それでもラスト、彼女は自殺を試み失敗する。それを知り祖母は号泣する。結局身内しか彼女を守る人間はいない。そして居場所を見失いかけていた彼女は祖母の後を継ぎ百姓になる決心をする。一応彼女は《救われる》。
だが物語はその後を描かない。それ以上の苦難を迎えるであろう事は今の日本の状況を見れば一目瞭然だ。この映画が作られて50年、一体どんな状況が変わったのであろうか。

演歌を歌う黒人歌手。ホップスを歌うハーフの少女。抜群の歌唱力を持ちながら世間が彼らを見る視点はやっぱりイロモノだ。最近の若い人々は違う、と反論する方もいるだろう。だが、一方でネットの中に渦巻く同じ東洋人に対する蔑視は過激さを増す。書いているのも大半は若者である。そして正直、こんな事を書いている私もまた、そんな色眼鏡を多分かけているのだ。まさに偽善の何者でもない。

日本人に生まれてよかった、という言葉をよく聞く。だが決してそれは日本に生まれてよかった、ではないんだよね。人、という言葉が抜け落ちる事で変わる優越感と差別感。
それに気づかされるのがこの映画を今見て思える《現実》の重さである。

それだけ「キクとイサム」はすごい映画だ。我々の中に眠る意識の醜さを甦らせ、それでも希望を抱かせる感動的な傑作。なのにヤフーのレビューにはこの映画の概要さえない。正直、これこそ偽善だと思うのは多分私だけなんだろうな(笑)

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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  • 知的
  • 絶望的
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