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太陽が知っている

太陽が知っている

LA PISCINE

120

アニカ・ナットクラッカー

4.0

人って簡単に死んでしまうんだな・・・

アラン・ドロンが主演した映画の作品レビューを書き込むのは久しぶりだ。今回取り上げるのは1968年の『太陽が知っている』。ドロンの映画で「太陽」が付いた邦題は他に「太陽がいっぱい」と「太陽はひとりぼっち」があり、「“太陽”三部作だ」などとバカな事を考えた。 僕はドロンの他にチャールズ・ブロンソンとスティーブ・マックィーンのファンなのだが、ブロンソンの映画は「さらば」が付くのが3本、マックィーンの映画は「華麗なる」が付くのが3本ある。太陽、さらば、華麗なる・・・。それぞれの言葉が俳優たちの個性を表しているようで面白い。 原題の“LA PISCINE”はプールを意味する。優雅なバカンスの象徴であり、本作の核心部で起こる殺人事件の舞台でもある。この事件が起こるのは深夜の午前4時であり、邦題の『太陽が知っている』は正しくない。ただし南フランスの陽光が降り注ぐ場面が多く、映画の雰囲気には合っている。 フランスではマルコビッチ事件(ドロンのボディガードが殺害された事件。ドロン自身も関与を疑われたが、最終的に嫌疑は晴れた)の渦中で公開され、空前の大ヒットを記録したという。監督はドロンとの仕事が多いジャック・ドレーで、代表作「ボルサリーノ」のレビューを書き込んだ事がある。 サントロペにあるプール付きの別荘で、主人公のジャン・ポール(ドロン)と恋人のマリアンヌ(ロミー・シュナイダー)がバカンスを過ごしている。お手伝いさんがいて、別荘からは田園地帯の絶景を見下ろすことができ、車でヘアピンカーブの道路を下りていくと海に行ける。僕も一度はこんな優雅なバカンスを過ごしてみたいものだ。 ここへ二人の共通の知り合いであるハリー(モーリス・ロネ)と美人の娘ペネロープ(ジェーン・バーキン)が滞在する事になる。それだけ広い別荘なのだ。ハリーはマリアンヌの元恋人であり、父を疎ましく思いながら逆らえないペネロープは、ハンサムなジャン・ポールに惹かれていき・・・、という感じで4人の関係に波紋が起こるのが大ざっぱな物語だ。 ジャン・ポールは自分の事をほとんど語らず、自信なさそうな目が印象的だ。一度だけサングラスをかけるシーンがあるが、内に秘めた冷酷さが垣間見えたようでドキリとさせる。周囲のセリフから総合すると、彼は17歳の時に自殺未遂事件を起こし、マリアンヌは彼を放っておけないという母性本能から付き合っている。物書きをしたがあまり成功せず、ハリーから「広告代理店の仕事はどうだ?」と聞かれるので生活のために広告の仕事もしているのが分かる。売れない作家によくあるパターンである。 マリアンヌは「彼女の論文は素晴らしかった」と語られるので、教育関係か医療などの知的労働に就いているのだろう。ハリーは音楽プロデューサーとして派手に活動しており、現在手掛けているレコードを聴かせる場面がありなかなかいい曲である。内向的なジャン・ポールに見せつけるように沢山の仕事仲間を招くシーンは、60年代の華やかな若者文化を感じさせる。 ジャン・ポールとペネロープが夜のプールサイドでギターの演奏に耳を傾けるシーンは、嵐の前の静けさと言うべき作中で一番ロマンチックなシーンである。ドロンの美貌はもちろん、スラリと伸びた手足のジェーン・バーキンの美しさには目を奪われる。ペネロープは母親から父は死んだと聞かされていたが、1年前に突然ハリーが現れて父親を名乗り、年の離れた恋人のように連れ回されている。父親としての愛情は感じていない様子だ。 ジャン・ポールに対して自分の優位性を誇示したいハリーは面白くない。ジャン・ポールと娘が深い仲になったのを悟った彼は、深夜に泥酔して相手をなじった挙句に殴り掛かり、プールに転落してしまう。この時点でジャン・ポールの心に殺意が目覚めたかどうかは分からない。しかし助けを求めるハリーを嬲るように、顔を水に押し付けて殺してしまう。気弱な人間がふとしたきっかけで悪魔に豹変する瞬間をドロンはうまく演じていた。表題の「人って簡単に死んでしまうんだな・・・」という言葉は、この時のジャン・ポールの気持ちはこんな物ではないかと思って書いた。 泥酔してプールで泳いだ末の事故死に見せかけるため、ジャン・ポールは偽装工作を行うが、捜査を担当する刑事(ポール・クローシェ)は折りたたまれていたハリーの衣服が汗もシワもない事に疑いを持つ。結局ジャン・ポールが殺害したという明確な証拠は挙がらないものの、楽しいバカンスはもはや終わりだ。人が死んだプールで泳ぐことはできず、水を抜くしかない。 そしてマリアンヌはジャン・ポールの偽装を目撃していた。ラストシーンはカーテンの閉ざされた室内で、秘密を共有した二人が抱き合う場面である。警察の追及に怯えつつ人目を気にして生きて行くしかない。豪華な別荘も取り壊される運命なのだろう。そう思わせる幕切れであった。

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