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春の夢 (1960)

監督
木下恵介
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3.89 / 評価:9件

回転する久我美子。

  • 二酸化ガンマン さん
  • 2015年4月10日 17時46分
  • 閲覧数 581
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

木下恵介は実験的な作品も数多く作りましたが、これもそのひとつです。実験的と言っても別に前衛的な作品というわけではなく、実験的な手法を用いる事で映画に新しい感触をもたらす、というのが木下のスタンスです。この映画の場合は一軒の家の中だけで進行する極めて舞台劇的な手法で撮られており、登場人物たちの主に恋愛に関するエピソードが同時多発進行します。家と言っても日本家屋ではなく、「大曾根家の朝」のような屋敷でもなく、近代的な洋風建築によるもので、物語は女優を中心に展開します。女優は全部で8人です。
そうです。この映画、ミステリー仕立てはありませんが、フランソワ・オゾンの「8人の女たち」によく似ているのです。限定空間の中での舞台劇風の演出、女優中心の物語、独特の色彩感覚、現実感を欠いた登場人物たち、ややコミカルでディフォルメ気味の演技。オゾンと木下、日仏の同セクシュアリティの映画作家が遊び心で撮ったら似たようなものが出来た、という事でしょうか。(「8人の女たち」は戯曲が原作ですが、この「春の夢」より後に初演されています。)
舞台はとある製薬会社社長宅。主な登場人物は先代夫人東山千栄子、その婿で社長小沢栄太郎、その娘で恋多き女である長女丹阿弥谷津子、貧乏画家と交際している次女岡田茉莉子、わけのわからない哲学的な独り言を言っている長男川津祐介、社長秘書久我美子、一家の主治医佐野周二、冷酷な女中頭荒木道子、女中の十朱幸代と中村メイ子、この家に焼き芋を売りに来て倒れてしまった老人笠智衆、彼を見舞う若者田中晋二、同じアパートに住む娘藤山陽子。女優は8人。
木下作品としてはあまり評価の高いものではありませんが、気楽に観る分には十分満足出来る完成度で、さすがに底力のある監督は違います。
岡田茉莉子の日本人離れした輝くような美貌(衣装も良い)も見ものですが、この映画はなんといっても久我美子です。
彼女は社長の小沢栄太郎から「オールドミス」と呼ばれています。今ならセクハラまたはパワハラでアウトですが、年齢は30才という設定なので時代を感じます。私は基本的に久我美子という女優はそれほど好きではないのですが、この映画に関してはオールドミスどころかストライクゾーンど真ん中、0-3からでもセンター前にクリーンヒットを狙えるほどです。
彼女は佐野周二と親しくなり、夕食の約束をしてもらいます。あんな関口宏の父親などどこがいいのかわかりませんが、彼女は喜びのあまり飛び上がって一回転します。ところがそこはジャンプや回転に慣れていない公家出身のお嬢様、「新しき土」で軽々と数回転していた当時16歳の原節子と違って着地に失敗し転んでしまいます。

可愛いじゃん。

おそらく多くの男性観客がこの場面にグラっときて、思わず画面の中に飛び込んで彼女を支えたいと思った事でしょう。木下恵介、お茶目な演出をするものです。
東山千栄子は中盤まで岡田茉莉子の交際を認めないといった頑固なところを見せますが、家で倒れた老人笠智衆が若き日に身分違いから別れざるを得なかった昔の恋人である事を知り、岡田を恋人のところに送り出してやります。笠智衆&東山千栄子、ここは「東京物語」のオマージュでしょうか。
この映画、基本的には屋内セット中心に構成されていますが、時折カメラは外に出て社長の工場で行われている大規模なストライキの様子などが映されます。非現実的な物語の中にアクセントのようにリアルな現実感を盛り込みながら、それでも映画全体のバランスを崩さないところが木下の名人芸なのでしょう。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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