レビュー一覧に戻る
ぼんち

ぼんち

105

bar********

4.0

ぼんち

ぼんち。市川雷蔵と市川崑の市川コンビによる映画ですね(^_^) 山崎豊子が原作の本を書いた。いやあ、良作だったと思います。見事に大阪の生活情景が活写されており(といいましても昭和初期の実態など少しも知りませんが、リアリティがあると感じました)、昔の艶のある風情がよく映されていました。 懐古主義者の言い分にはあまり耳を貸したくないと思っておりますが、少しは過ぎ去った時代に思いを馳せる楽しさが分かったような気もします。あのころは○○だった……私はそういった言葉が大嫌いでしたが、昔の日本人の心というものに触れられるような、このような映画を見ると、まるでそのときにタイムスリップしたような感覚が生まれ、自分の奥に眠っていた古い日本人としての情が、(それは嫌な、陰湿なものも含むのですが)ふつふつと目を覚まして呼びかけてくるように感じました。 市川雷蔵の演技も見事ですし、さまざまな女性たちの演技も高水準で素晴らしいと思います。音楽も高クオリティで印象的でした。また数々の女性遍歴も変化に富んでいて、飽きさせない作りになっています。 ですが演出においては、最高クラスと呼ぶほどではなく、普通よりは良いというレベルに留まったと思っています。静かに少しずつ淡々と、ストーリーは描かれていくのですが、ちょっとメリハリといいますか、刺激のコントロールがうまくなかったかなと感じられました。生活描写に力を入れるあまり、全体としてのテーマの表現が弱くなっているように感じます。これで強烈なテーマ性があったらよかったのですが、日本小説にありがちな「おとなしい、優等生的で性格的に欠けたような」ストーリーの流れになっていて、他の傑作などと比べるといまひとつパワーがない。人間の奥底をえぐるような、人間の魂を揺り動かすような、強烈さがない、なるほど美しいのはそうだけれども、あってもなくてもいい、存在の軽さといいますか、そういう日本文学界に特徴的な弱点が出ちゃっていると思います。原作の罪かもしれませんが。 もちろん強烈なものを描けば、それだけ美しく描ききるのが難しくなります。それがちょっと頭の痛いところです。ですが海外の作品はそういうところが上手なんですね。スケールが大きくて、そしてさらに深遠な、それでいてしっかり自己完結している世界を持つ偉大なストーリー制作者がたくさんいます。 関係ない話でしたね(笑) この映画は日本小説を下敷きにしているせいか、その色がとても濃く出ていましたので、つい脱線してしまいました。名作というほどではありませんが、見ればきっと「よかった」と思える作品だと思います。

閲覧数762