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妖刀物語 花の吉原百人斬り

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5.0

悲劇とは

 佐野二郎佐衛門(片岡千恵蔵)という男がいた。赤子で捨てられ、拾われた先の生糸商家で懸命に働き身代を築き上げた。だが、顔に痣を持つため女から惚れられることなく三十の歳まで、嫁の来手がなかった。家を引き継ぐ者がなくては先代に申し訳ないと私心を離れて、何度もお見合いを繰り返す。ある日、江戸でそのお見合いをしたついでに、商家仲間の先輩に連れられ、吉原で初めて遊ぶが、そこで、次郎佐衛門に好意を見せた女郎がいた。後の太夫「八つ橋」(水谷良重)である。この出逢いが結末の壮絶な悲劇に結びつくとはこの段階では考えにくい。  この「八つ橋」は岡場所上がりの吉原の女郎であり、吉原の女郎仲間から蔑まれていたため、見返してやろうと太夫まで登りつめることを決意する。岡場所で男の扱いに手慣れていた「八つ橋」にとって、恰好の存在だったのが、佐野二郎佐衛門なのだ。金はあるし、「八つ橋」の「夫婦になろう。」という真意を信じて疑わない。  佐野二郎佐衛門は金を湯水のように「八つ橋」に注ぎ込んでも、嫁にしたい想いは募るばかりである。そんな時に、桑の木の被害が出来し、生糸商は大打撃を受け家勢は傾き始め、その事情を知った上で女郎屋の主人(三島雅夫)と女将(沢村貞子)は金を奪うだけ奪って、身受けを諦めさせようと「八つ橋」を利用して大儲けを企むのである。  最後の結末は壮絶な悲劇をここで詳しくは言うまい。  原作は河竹新七が明治21年に著した歌舞伎台本であるが、私はこの原作を忠実に再現しているのかは知らない。しかし、この映画を見る限り、話の展開に惹かれてしまった。私は、オペラ「カルメン」のカルメンとドン・ホセを連想したが、この映画の方が話の展開としては面白いと感じた。片岡千恵蔵は難しい役柄を見事に演じているし、三島雅夫の脅しとお上手と使いわけの演技も素晴らしいし、沢村貞子の口八丁ぶりも大きな意味を持たせている。水谷好重も熱演と言えるだろう。  すでに故人となったある文芸批評家が、悲劇についてこう語っている。「人間に何かが足りないから悲劇は起こるのではない、何かが在り過ぎるから悲劇が起こるのだ。否定や逃避を好むものは悲劇人たり得ない。何もかも進んで引き受ける生活が悲劇的なのである。」私はこの映画を見て、悲劇についてのこの言葉を噛みしめた。  

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