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五人の突撃隊

kot********

4.0

この「どんでん返し」は泣く

忘れ去られ、もう誰も観なくなった作品なのだろうが、傑作と言って良いと思う、心揺さぶられる映画だった。 冒頭シーン、機銃掃射の中を決死の突撃、敵戦車隊が現れ、手榴弾で対抗。 昭和19年5月、ビルマ最前線。 一発の弾薬も、一粒の米も、補給されないまま塹壕の中で疲弊するばかりの野上中佐率いる大隊。 前面の敵を突破するよう命令された曽根旅団長は、中佐の息子・野上少尉を連れ、前線の指揮をとることになる。 弾薬も食料も、何のなぐさめもない前線。 塹壕の壁に作った泥の女体をなぞりながら、初夜の思い出に浸る男がいる。 「はだけた長襦袢から白い胸がのぞいてさ、そのポチャポチャ〜っとしてること、まるで突きたてのお餅のようだった。花嫁は恥ずかしそうにしてさ…。」 若い兵士たちは、息を呑んで話に聞き入る。 作戦の進行の合間に、五人の若者たちが、内地に残してきた過去を回想する。 野上少尉は、父との確執がある。 幼い頃から、父が兄には甘く、自分にだけ厳しいことに憤っていた。 部下の命を優先する父を腰抜けだと罵り、突撃してこそ軍人だと言い張る。 噺家の修行中だった不器用な男は、高座でも戦地でも「お粗末」と呼ばれながらも、真打ちになることを夢見ている。 画家を志していた美術学生は、恋人の肖像を描く。 「結婚しようって言って下さらないの?私、本当の人生を暮らしたいの、たった一週間でも、あなたと一緒に。」 ふたりは、招集の一週間前に結婚する。 出征時、妻のお腹に命が宿っていることを聞く。 男は兵役免除を企て、左手をわざと怪我し降格する。 刑務所に収監されていた不良男に赤紙が届く。 久しぶりの実家に帰ると、近所に後ろ指を指される。 父も兄弟も「帰って来なくていいのに。」と言う。 「お前のせいで妹は嫁に行けなくなったんだ。お向いの息子は立派な英霊になった。悔しかったらお国の為に死んでこい。」 呼び止める母を振り切って「死んでやるさ!」と飛び出す。 戦地では、上官に敬語も使わず不遜な態度をとる。 死も何も恐れていないようでも、地雷除去の指先は震える。 小規模な突撃を仕掛けた隙に、曽根旅団長は大隊に撤退を命ずる。 敵の故障戦車をトーチカがわりに、五人の若い兵士が残り、しんがりを務めることになる。 ついに、敵戦車部隊の総攻撃を迎え撃つ五人の若者。 ここで、最後の五人目の男の過去が回想される。 雪の積もる結婚式の夜、宴もたけなわ。 親戚たちに囃し立てられながら、布団が敷かれたはなれに入る新郎新婦。 おずおずと床の準備を始めると、外の宴会の騒ぎがピタリと止む。 こんな夜に召集令状が届いていたのだ。 男は、すぐに最終電車に乗るよう促される。 ずっと男が語っていたスケベな初夜の記憶は、あと一歩で届かなかった幸せな夢だったのだ。 序盤のくだらないギャグ描写が、まさかこんな伏線になっているとは。 この「どんでん返し」、あまりにも切なくて涙を堪えるのは難しい。 激しい銃撃をかわしながら、戦車部隊をなぎ倒していくが、初夜男、噺家、画家の順に命を落としていく。 その瞬間、彼らが内地に残してきた想いがフラッシュバックされる。 橋を破壊し、陣地へ戻った野上少尉と不良男は、命令違反の責任をとり自決した曽根旅団長の姿を見つける。 ふたりは旅団長を荼毘に付す。 それを見つけた英軍が、遠くから銃撃する。 と、野上少尉だけが被弾し「おとうさん…」と言い残し死ぬ。 その時、雨が降り出す。 ビルマの地に雨期が訪れた。 「しばらく戦闘はお休みだな」と言い英兵は去る。 死ぬために戦地に来た男には、死ぬ事も許されなかった。 「俺みたいなクズだけ残しやがって、馬鹿野郎!馬鹿野郎!なんで戦争なんかしやがんだ!」 大雨のジャングルの中を、形見の刀を抱え歩く不良男の後姿。 モノクロの映像で撮られた塹壕や夜の戦闘は、真っ暗でよく判らない。 しかし現実はもっと何も見えないだろうから、リアルな描写と言えるかもしれない。 戦車の走行や砲撃、銃撃戦などのアクション表現、軍人の言葉や仕種なども、素人目にはリアルに感じる。 しかし、この作品そのものが描いているのは、現実にはありえなかった日本軍の姿である。 人命を尊重する理性的な上官。 たった五人の若者の超人的な動きで、戦車部隊を撃破。 これらは、制作された’61年当時の「こうであってほしかった」という叶わなかった夢のように感じた。 それは、死ねなかった男のラストのセリフ「なんで戦争なんかしやがんだ!」に、一番強く表れているのだろう。

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