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黒の試走車(テストカー)

lov********

3.0

ネタバレある実在したメーカーがモデル

この物語、実際にかつて存在した自動車メーカーがモデルになっており、主人公らが新製品=新兵器と位置付け、トップシークレットで開発に邁進する車「タイガー・パイオニア・スポーツ」も、パイオニア・スポーツをデザインしたイタリア人デザイナー「ミケランジェロ氏」も、自動車マニアなら、「ああ、あのクルマ、あの人の事か」と分かる。 ええい、背景を種明かししてしまおう。 「タイガー自動車」は昭和41年に日産に吸収合併された「プリンス自動車工業」であり、「パイオニア・スポーツ」は「スカイライン・スポーツ」、そしてパイオニア・スポーツをデザインした「ミケランジェロ氏」は、イタリアの巨匠ジョヴァンニ・ミケロッティである。 さらにネタバレすれば、この原作には、実際にプリンス自動車の企画課長T氏が裏で関わっていた。 つまり、こういう企業モノのサスペンス小説の舞台にして、一種の宣伝効果を狙った、というわけである。 余談ながら、では実際のプリンス自動車はどうだったかと言えば、パイオニア・スポーツのモデルになったスカイライン・スポーツは高価過ぎてわずか60台ほどで生産打ち切り。(当時は超高価な国産車を買える層は、むしろ外車を買ったであろう事は、容易に想像がつく。) そして何とか高性能、高級のイメージを持つ事は出来たものの、結局昭和41年には前述の通り日産に合併吸収される運命にあった。 それらは通産省の肝煎りで、プリンスの社主と日産社長の三者で極秘裏に決められた事であり、仮にこの映画のようなメーカー同士の熾烈なスパイ合戦があったとしても、それさえもどんでん返しでひっくり返すような結末が待っていた、という事である。 その合併劇、当のプリンスでも会長と社長以外には事前に知らせなかったというぐらいなのだから…。 さて、ライバル会社の馬渡という幹部は、元陸軍の参謀将校だったという前歴からして、どことなく伊藤忠の瀬島龍三氏を思わせる。 次に、任務遂行のためならかなり手荒な事もする主人公の上司(高松英郎)と、上司に影響を受けて冷徹に産業スパイになり切ろうとする主人公朝比奈(田宮二郎)。 朝比奈は、敵方の情報を得るためなら、自分の女さえも道具として使えるほどの冷酷な戦士になる。 さらに社内の内通者(船越英二)や、二重スパイの記者等、途中までは実にスリリングな展開だ。 しかし…朝比奈が最後に急に人間性を取り戻す展開が唐突だ。 途中のスパイ合戦が実に充実していただけに、そこだけ、主人公が急に物語から浮いた存在になるのだ。むしろ、最後まで企業の論理で動く上司を突然見放して、急に良い子ぶっているようにしか見えないのだ。 この物語が、企業の非人間性と、そこから脱して人間性を取り戻す主人公にスポットが当たる事を意図しているとするならば、後者の唐突な展開はいただけない。 朝比奈が、自分の女を「道具」にしてしまった事をきっかけに徐々に、ゆっくりと自分の仕事に疑問を感じるようになる展開なら、それは分かるのだが。 そこを描くには、時間(尺)が足りなかったと言うべきか。或いは編集がお粗末になってしまったと言うべきなのか…。 テーマが企業モノには最適であっただけに、そこが何とも惜しい。 さて、ラストシーンで登場する、タイガーの新型スポーツカー「パイオニア・スポーツ」となっている車は、フランスのルノー・フロリード(カラベル)である。

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