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黒の試走車(テストカー)

kyo********

3.0

ネタバレ陳腐化=安易な価値観の報い

安易なシリアス現代ものは年月が経過すると陳腐化する。 その好例。 冒頭の実験自動車の走行シーンから笑えてしまう。 製作者たちの意図に反して。 ひと昔もふた昔も前の子供用SF映画の乗り物に見えてくる。 最先端の「スポーツカー」がセンスのかけらもないデザインで登場する。 事ほど左様に「現在」の認識とははかなくて、「相対的」な無常の世界にある。 過去の価値観に対して現在の価値観が優越する、といっても空しいものなのだ。 むろん、この映画に出てくる「スポーツカー」のデザインを笑える、今の我々とて同じなのだが。 =================== 自動車産業界の企業間スパイ戦争の熾烈さと、エグさを、 「誰がスパイなのか?」という謎解きに絡めて進む話は面白い。 その深みを突いて、蛇が蛇を飲み込むような魑魅魍魎の世界にいざなってくれれば、 もっと面白かった。 しかし、映画は、きわめて簡潔で単純な「社会批判」に落ち着く。 そのため、サスペンスドラマとして中途半端に終わっている。 こうしたドラマ作り、話づくりが作者たちの倫理観、正義感に依拠し、 それが万人に受け入れられるという、ある意味安易な前提が、 話をつまらなくしている。 ==================== ライバル会社の産業スパイのボスが元関東軍特務機関の凄腕で、 えげつない方法で攻撃を仕掛けてくる。 それに対抗する「戦後派」の企業エリートたちも、 それに劣らぬえげつさで戦う。 旧陸軍の軍服を背広に着直して展開するのが現代企業間戦争である、 という「社会批判」がオチになる。 人の命や人間性を犠牲にして企業を発展させる忠誠心は、 かつての忠君愛国と同じである、という簡明なメッセージである。 現在に至る、 旧陸軍=非人間性=悪 という図式に依拠し、その象徴性を具現化すれば「倫理的」及第点を得る話作りが、ここにある。 日本の社会派ドラマ化の一脈がある。 ==================== さて、今の企業間戦争を、このような批判で表現できるものなのか? かつてよりさらに熾烈で複雑な手練手管が、現代の企業間戦争では繰り出されているのかもしれない。 あるいは、この映画に登場するような徹底したマキアベリズムで戦う能力を喪失した 軟弱な戦士しか残されていないために、日本企業は国際競争力を失ったのかもしれない? いずれにせよ、旧陸軍の手法、体質を批判したところで、問題の剔抉(てっけつ)には至らない。 トヨタ、ニッサン、ホンダの戦いを暗喩しているとすれば、 たぶん、冒頭とラストに登場する新型「スポーツ車」の姿を見るのと同様、 失笑せざるをえないわけだ。 時間の経過とはむごいものである。

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