レビュー一覧に戻る
放浪記

放浪記

123

Kurosawapapa

5.0

ペシミズムの中に存在する 生きる力☆

林芙美子が自らの日記をもとに放浪生活の体験を綴った「放浪記」。 本作は、3度目の映画化(1962年・成瀬巳喜男監督)。 ( ちなみに、公演回数2017回の “でんぐり返り” がある森光子主演の舞台は、この映画よりも古い1961年から公演されていたというから驚き! ) 行商に始まり、女工、カフェの女給など、職を転々とするふみ子(高峰秀子)。 貧乏のドン底から、人生修行を経て流行作家になるまでが描かれる。 ・光と影の使い分け ・リアリティーを高める具体的金額の提示 ・観客の想像力を高める “場面の省略”  これらテクニックは、まさに成瀬映画の特徴。 田中澄江・井出俊郎の脚本、中古智の美術、石井長四郎の照明と、成瀬組の手腕が冴え渡る。 また、林芙美子の物語だけあって、主人公(高峰秀子)の詩的なナレーションが、 ストーリーに深味を与えている。 林芙美子の小説を原作とした成瀬映画は、 他にも「めし」「稲妻」「晩菊」「浮雲」など、どれも名作ばかりだ。 主演は高峰秀子、母親役に田中絹代の二大女優。 ストーリーは、主人公の男性遍歴にもなっており、 ヒロインを取り巻く男優陣も、加東大介、仲谷昇、宝田明、小林桂樹など、十人十色。 特に宝田明は、最初はふみ子の良き理解者として登場するが、肺病で痩せ細り、 ふみ子に食わせてもらっての生活、作家としての嫉妬と、苛立ちをつのらせていく演技は秀逸。 そして、誰もが絶賛するのが、やはり主演である高峰秀子の演技。 猫背で、 上目使い、 やさぐれて、 厭世的。 それでも貧困にめげず、あっけらかんとした様が、芯の強さを感じさせる。 主人公はよく舌を出す。 その場繕なのだが、それは苦難を乗り越える術(すべ)にも見える。 また、原稿依頼を受けた時など、稀に見せる笑顔が、なんとも輝きを増している。 女の 強さ と 弱さ を同時に表現した高峰秀子の演技は、実に見事。 男と女によるペシミスティックなドラマは、成瀬映画の特徴。 それでも女は、「なるようにしかならない」と、日々懸命に生きていく。 お金に困ろうとも、不幸に襲われようとも、 気丈に尽瘁する女性こそが、成瀬映画のヒロイン。 生涯 “生きる” ことをテーマに映画を作り続けた、成瀬監督らしい名作です☆

閲覧数1,173