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古都

古都

105

cyborg_she_loves

4.0

完成された映像美の世界

 原作を読まず (しかも「雪国」などと総合的に見ることもせず)、この映画だけを見て、これがノーベル文学賞の対象作品になったと聞いたら、まずほとんどの人は、なんだ、たったこれだけの作品でノーベル文学賞ってもらえるものか、と驚くでしょうね。  とにかく、人間描写というものが、あきれるほどアッケラカンと薄っぺらなんです。千重子は苗子を呼び寄せようとするが、苗子はどこまでも身を引こうとする。たったそれだけの光景が延々と描かれているだけです。  血を分けた双子なのに、なぜ千重子だけが織物屋のお嬢様でまわりじゅうからチヤホヤされ、私だけがこんな苦労しなくてはならないのか、という疑問、嫉妬、怒り、自己嫌悪に苦しみながら、でも同時に、もうひとりの自分がいたみたいな特別な親愛の情もある、といった、複雑に渦巻く感情は、まったく描かれていません。  心理ドラマとしては、完全な落第作です。  それからもうひとつ、この映画でとても褒められないのは、どなたかも書かれてますが、武満徹の音楽です(余談ですが、武満も川端も、日本でより圧倒的に海外で評価が高くて、日本人はその世界的名声を自慢してる、という芸術家ですね笑)。  私はこれを見た後に、比較してやろうと思って、2005年の上戸彩さんが主演したテレビドラマを見ましたが、音楽が流れてきた瞬間、そうそう、この作品にはやっぱりこういう音楽じゃないと駄目だわ、と心底思いました。  さらにもうひとつ、付け加えさせてもらえば、ドラマと見比べて実感したのは、この映画の俳優さんたちの演技のぎこちなさ、京都弁のとってつけたような堅苦しさです。  この当時はこういう演技はわりと普通だったので、これは「欠点」というより、この映画の「古さ」というべきかもしれませんが、とにかく今の観客にはこの演技は不自然です。  と、駄目な点をまず先に並べましたが。  しかし、それを補ってお釣りが来るぐらいの美点がこの映画にあるのも事実です。  何よりもまず、映像の美しさ。  この映画の古さは同時に、京都がまだ昔の美しさを至る所に残していた時代に撮影された、ということでもあります。今、京都の町の路地裏に分け入っても、こういう風景は見たくともなかなか見るのが難しくなりました。  そういう、映像美に徹底的にこだわる目を通して撮影されたから、という要因も大きいでしょうが、岩下志麻さんのこの映画の中での美しさは、ちょっと「神々しい」と言いたくなるような素晴らしさです。  もうストーリーとかそんなことは全部ふっとんで、ただ彼女の映像を見たい、ただそれだけのために、何度でも見たくなる映画です。  私の個人的な単なる推測ですけど、中村登監督は、この京都の映像と岩下志麻さんの姿の映像を利用して、徹底的な映像美の世界を作り上げたかったんだと思います。そして、人間のどろどろとした醜い感情は、この映像美を破壊するものでしかないが故に、あえて取り入れることを拒否したのだと思います。  そう思って見れば、これはこれで完成したひとつの世界を作り上げるのに成功していると思いますね。見事なものだと思います。

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