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黒の報告書

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4.0

証拠より証言

1963年。増村保造監督。正義を信じる若手検事(宇津井健)が殺人事件を担当することになる。証拠も動機も固めたものの、やり手弁護士の偽証工作で犯人が無罪になっていくという話。カギを握っている被害者の愛人(叶順子)が生活のために偽証してしまうというところにドラマがあるのですが、さすが増村監督、そのままでは艶っぽくないと思ったのか、後半、唐突に彼女が検事に求婚するというシーンを入れています。愛情などかけらもないが、偽証しなければ女一人で生きていけないという苦境の現われなのですが、その後、弁護士に裏切られた女は本気で検事の側になびこうとする。しかし一審で敗れた検事は青森転任が決まって。。。 偽証によって真実が捻じ曲げられる、真実を真面目に追究する若者が挫折する、ということになっているのですが、そもそも検事自身が「自白がなによりも強い」というように、司法システム自体が、証拠よりも自白や証言が物を言うという仕組みになっている。自白が強いからこそ偽証も強い。検察も弁護士も裁判所も、証拠の追究よりも証言の追及に向かっている。例えば最近だったらテレビドラマでさえ、熱血検事が求めるのは証言よりは証拠ではないか。時代を感じます。 「真実の証言は曲げられる」から、法廷シーンでは検事の宇津井健がそのままアップになることはなく、傍聴人や弁護士や裁判官らと一緒の画面に、しばしば見にくい構図で描かれています。 叶順子の偽証に焦点を当てれば、偽証をめぐるよりドロドロした愛憎劇になったのでしょうが、宇津井健は真相解明をめざす自分の使命に酔う若造という感じ。ラストでやはり本当のことを話すという叶を突き飛ばすあたりに青臭さが漂っています。そういえば、この叶順子は、どう見ても若尾文子(監督のお気に入り)のコピーのように見えます。

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