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乱れる

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5.0

ネタバレ成瀬巳喜男最高傑作

再見。何度見ても素晴らしい、いや見る度により面白く感じる。 「流れる」「驟雨」等と共に成瀬の最高傑作の一つだぜ。 他の成瀬映画に比べると劇的な音楽が度々奏でられる。 この映画は「君と別れて」における様々な記憶を思い出す。 あの映画の水窪澄子のような眼差し・表情をする高峰秀子、二人の男女の距離と目的地への距離を縮めながら進む列車、それを支え道となる橋、橋、橋。 弟が小腹を埋めるため停車時間中に立ち食いソバを食べている時も、駅ではベルが鳴りちょっとヒヤヒヤさせる。 霧の中を走る列車から、あえて時間のかかるバスや宿での宿泊を選ぶ女心。 特に終盤、列車で徐々に距離を縮めていくシークエンスはドキドキさせられる。列車は絶えず動き続けるし、止まる駅でも乗客の乗り降りで運動は続く。 最初は他の客がいて弟が立ち続け、次第に背中越しに、やがて向かい合う。姉の横で転寝中のオジサンにやきもちめいた気持ちを覗かせる弟が面白い。 物語は、軽トラックがスーパーの宣伝を高らかにする場面から始まる。 新しい時代を象徴するスーパーの波、戦後のバラックから店を守り過去の亡霊に魂を繋がれたかのような人間たち。 特に義姉のヒロインを演じる高峰秀子は。 バーの早食い競争(おせじにも美人といえない女優ばかりで悪意を感じる)を止めるニートの加山雄三。 でも出前のソバを食べても、帰れば姉の手料理を食べたくなる。本当に食べたいもの、欲しいものはそれなのだから。 この頃からパチンコや麻雀だけで生計たてちゃう奴がいるのね。それすら出来なくなった人間は、家族を残して簡単に首をくくってしまう。 冒頭で何かを心配そうに見つめていた義姉は、そんな義弟が無事に帰って来るのを毎日待ち続けているのだ。 ちょっとくたびれた表情も見せる義姉。 義弟はそんな彼女を尻目に毎晩遊んだり警察の世話になっている。 「じゃあ何の仕事がいいの?」 「無職」 後の若大将も劇中では筋金入りのニートな馬鹿大将。そんな男が、いつしか愛する義姉のため自分なりに働き始める。義弟を動かすのは家族を想う愛だけでなく、元々血の繋がらない“異性”に対する愛も強い。 義姉も弟としてでなく、いつしか異性の“男”として心を許すべきかと悩みはじめる。前の夫の面影が、そんな彼女に中々ふんぎりを付けさせてくれない。 わざわざ寺に呼んでおいて「明日」などと言って焦らす。それを言うためだけに待ちつ待たせての寺での会話。 あれだけ焦らしておいて、二人きりの旅館では「ああやっぱり」的な。そんなやり方、誰だって知らず知らずの内に傷ついてしまう。 下手な優しさが、かえって人を傷つける結果になってしまう哀しさ。 でも、その理由は弟が姉の本名ではなく最後まで“姉さん”と呼び続けたからでもあるのだろう。 もし弟が姉を名前で呼び、彼女を本当に“女”として受け入れていたのなら・・・そんな事も考えてしまう。 諦める心、最後の電話、失って初めて“愛していた”と思い知らされる後悔・・・女はようやく愛しはじめた男を探しに駆けていく。身も心も、髪も乱して・・・。

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