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ジャコ萬と鉄

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5.0

ネタバレプロレタリア映画の傑作

荒れ狂う大自然の大海原と枯れ葉のように翻弄される小さな漁船。家計を支えるため、各地から出稼ぎにやって来た屈強な男達。中でも腕っ節に秀でた二人の男。善と悪、意地と意地の対決。父子の愛。男臭い片想いの淡い恋心など・・・見事である。 初めの内はヒール役だったジャコ萬が鉄と出会い、次第に豊かな人間性を取り戻して行く過程は感動する。 これより遡ること15年前(1949年)にも谷口千吉監督で映画化されている。脚本は同じ黒澤明と谷口千吉。その時は鉄役に三船敏郎、ジャコ萬役に月形龍之介が充てられた。 ストーリーは全く同じ。深作欣二監督になり、唯一目立って違うところは男臭い鉄の淡い恋心の表現部分である。旧作では教会のピアノ弾き、本作では農家の娘がその対象となる。共に鉄の一方的な片想いなのだが、後作の方が断然いい。前者はある種、手の届かない憧れの対象で何処か遠い存在だったのに対し、本作ではより接近している。だからこそ、ラストシーンでその娘が彼氏(夫?)と一緒に楽しそうにトラクターに乗って大地を耕しているところを黙って遠くから見つめ、一瞬悲しげな顔をし、苦笑いで去って行く鉄が人間的魅力に溢れているのだ。 年老いた父親(山形勲)が立腹して何度も鉄の頭を張るシーンは、その行為の深遠な部分に固い絆で結ばれた「親子愛」を感じさせる。それほど父と子の名演技にほろりとさせられた。 番屋の主(鉄の父親)のやんしゅ(鰊漁に携わる季節労働者)の出稼ぎ人との関係は、そのまま一般的労使の関係になる。がめつい主に反旗を翻し、ストを決行するが鰊を捕らなければ自分たちも実入りがなくなり、遠く故郷で待つ家族を食わせていけなくなる。 「主のために捕るんじゃない。自分たちのために捕るんだ。この瞬間から鰊はお前達の物なんだ」 鉄がやんしゅ達にハッパを掛けると、みんなが立ち上がる。感動的なシーンだ。 「網を切ったら鰊は流れてしまう。しかし、それと同時にやんしゅの家族まで流してしまうんだぞ。それでもいいのならこの腕を叩っ切ってからにしろ!」 主に対する積年の恨みを晴らすため、鰊漁の最中に網を切ろうとするジャコ萬に鉄が綱の上に自分の腕を置いて叫ぶ。男の中の男、健さんにぞくっとなる瞬間だ。もっと格好良かったのは手にした斧を断腸の思いで海に放り投げるジャコ萬である。 シンプルなストーリー。対立軸が明確でわかりやすく、カセ、葛藤、そして大自然の脅威と戦う男臭さ、ヒューマニズム等で完璧なまでに満たされたシナリオは最高に面白く、邦画全盛期の勢いのようなものを感ぜずにはおれない。 全てに於いて前作を上回り、よりドラマティックになった深作版『ジャコ萬と鉄』は、間違いなく日本プロレタリア映画の名作と言っていい作品だと思う。

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