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獣の戯れ

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2.0

文学・文芸コンプレックスを募らせる映画

 予告編で「三島文学の香気をあます所なく映像化した文芸大作」という。続いて、「とざされた世界で渦巻く愛欲の炎」とも。  「文学の香気」、って? 確かに、「…… 妻と青年の“情事”」「獣の“戯れ”」の場面が全編に「映像化」されている。だが、これに「…文学の香気」を感じる?  「愛欲」、って? えっ? “情事”や“戯れ”が「愛欲」?  愛欲というのはkāmaという仏教用語に、漢字に翻訳した熟語であって、情事や戯れには当たらない。誤訳なのだ。  「愛欲」を英和辞典で見ると、lust。lustをEDR日英対訳辞書で見ると「欲情;肉慾;性欲;春機;淫;淫慾;春情;春;淫情;色心;色欲;淫欲;情慾;色情;肉欲;色慾;情欲;性慾;生心;肉情;婬;婬情;欲念」と、こんなに沢山の訳語があるのに、「愛欲」という日本語は見当たらない。  獣の「戯れ=lust」を「情」事に、更には「愛」欲に、あたかもkāmaであるかのように描くのが文学の香気と言わんばかり。  「戯れ」気分は誰にもあること。別段、秘めたり隠したりすることでもなかろう。別段、「文学の香気」を漂わせなくても、「文芸大作」と気負わなくても、「愛」欲などと意訳しなくても、獣っぽい戯れを獣っぽい戯れとして描いておけばいい。  なにもエロスがいけないというのでもなんでもない。単なる欲や戯れに、妙に香気を醸して文学だ、文芸だと気取ることもなかろうに、と思うのだが、…… こんな具合に、全然文学的センスのない者には、ますます、文学・文芸へのコンプレックスが募る映画だった。

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