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風と樹と空と

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3.0

集団就職の時代

集団就職で地方から上京してきた若者たちを主人公に据えた映画は、苦しさや辛さに負けず前向きに頑張る青春像を描く作品と、大都会の魔力に染まって身を持ち崩していく後ろ向きの青春像を描いた作品に分けられると思います。制作会社のカラーや、監督や脚本家の姿勢などの要素が如実に現れてくると思いますが、今回の作品は前者の代表的な作品ではないでしょうか(ちなみに後者の代表は新藤兼人監督の『裸の十九才』かな?)。 ――東北の高校を卒業した男女が集団就職で上野駅に到着するところからこの物語は始まります。駅に降り立った彼ら、彼女らを幟を立てて待っているのは企業や商店の担当者たち。高度成長期の人材不足の世の中、地方出身の若者が「金の卵」ともてはやされた当時、季節の風物詩となっていた光景です。そんな雑踏の中、どんな人が迎えに来てくれのかなぁ、と期待で胸をときめかせる一人に、主人公の吉永小百合がいます。彼女を迎えに来たのは企業や会社の担当者ではなく、お坊ちゃん風の青年、川地民夫。そう、吉永小百合は住み込みのお手伝いさんとして上京してきたのです。 住み込んだ安川家は、絵に描いたような当時憧れの上流階級。社長の父親とやさしい奥さん、慶応大学に通う長男(浜田)と高校生の妹の四人家族。誰もが明るく開放的で、一人地方から上京してきた吉永小百合を温かく迎えてくれます。それに対して吉永小百合も、明るく、はつらつとした、気の強い彼女の魅力全開で応えています。それでも、デビュー作の『キューポラのある街』の時代から時は流れ、東京オリンピックを控えた日本は好景気を迎え、格差社会の様相が顕れ始めています。 ある日、奥さんのお供で三越デパートに買い物にでかけた彼女は、7500円(当時!)の特選商品をキャッシュで買う夫人を見て驚いてしまいます。泥田で這いずり回っている両親に比べて、天と地ほどの差。わけもなく落ち込んでしまう彼女に、「私はもうそれに慣れてしまった」と、あきらめ交じりに自分自身の境遇を受け止めている奥さん。 この上品でしとやかな奥さんを演じているのが、加藤治子。ぼくらの世代にとって忘れられないテレビドラマ『寺内貫太郎一家』で、地方出身のお手伝いさんの浅田美代子を我が娘のように可愛がる、あの加藤治子が、ここでも同じように孤独でギャップに悩む吉永小百合を見守ってくれていました。 一緒に上京した仲間たちは、やがてそれぞれの人生を歩き始めます。転職を繰り返す者、同級生同士で結ばれるカップル、やむなく故郷に帰っていく者……。この夢半ばで東京を去っていく青年役を演じた浜田光夫がいい味を出しています。日活の二枚目俳優の中でも、石原裕次郎や小林旭、二谷英明みたいな「闘う二枚目」ではない浜田は、ちょっと軟弱でも人の良い表裏のない好青年を演じさせたら右に出る者がいない貴重な役者だと思います。 集団就職で東京や大阪などの大都会にやってきた若者たちのその後について、興味本位に想像することは失礼でしょうし、かと言って『三丁目の夕日』みたいなきれいごとだけで片付けられるわけでもないでしょう。平成も間もなく終わろうとしている現在、昭和はさらに遠くなっていきます。集団就職それ自体も、昭和という時代を語るうえでの一つのエピソードとして歴史に刻まれていくのでしょうか。

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