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乱れ雲 (1967)

監督
成瀬巳喜男
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3.78 / 評価:37件

成瀬監督最期のテーマは禁断の愛:まとめ付

  • Kurosawapapa さん
  • 2009年10月9日 8時13分
  • 閲覧数 714
  • 役立ち度 36
    • 総合評価
    • ★★★★★

この映画は、交通事故で夫を亡くした由美子(司葉子)と、加害者の三島(加山雄三)の“禁断の愛”を描いた1967年の抒情詩的作品です。

そして、2年後の1969年に病没した、成瀬巳喜男監督の最期の作品でもあります。



不可抗力で由美子(司葉子)の夫を殺してしまった三島(加山雄三)は、
誠心誠意、由美子に償おうとします。

由美子は、示談金を受け取ることは悲しい過去に縛られると、受け取りを拒否。
償うことさえ許されない三島には、一層、十字架が重くのしかかります。

しかし由美子は、三島の誠意、素直な人間味に触れ、
胸の内が少しずつ変化していきます。

由美子は自らの中に、 “拒絶” と “容諾” の葛藤があり、
一方の三島には、 “罪悪” と “愛情” の葛藤があります。

そんな壁を乗り越えた時、2人の禁断の愛は結実していきます。



==成瀬テクニック==

成瀬映画には、「雨」のシーンがとても多く使われています。

劇的なシチュエーションを排除し、表現の装飾を嫌う成瀬監督ですが、
「雨」だけは違いました。

本作でも、2人が雨宿りをするシーンがあり、
風邪をひいた三島を由美子が看病する名シーンに繋がっていきます。

成瀬映画における「雨」は、哀しみに満ちた雨であったり、
時には男女を結びつける優しい雨であったりします。

「雨」が果たす役割は、
状況設定だけでなく、常に登場人物の心の表現でもあり、
物語に寄り添い、決して突出せず、観客のエモーションを静かに揺り動かします。

===========



本作で描かれた、拒絶、容諾、罪悪、愛情、
これだけの情念が交錯しながら、
この映画が、淡々とした流れになっているのは、
・ 司洋子と加山雄三の、抑制された演技、
・ そして“静なる巨匠”と言われる成瀬監督の優れた演出にあります。


後半、2人が乗ったタクシーが、踏切で待つシーンがありますが、
列車が通るその線路は、2人が越えてはならない一線の暗喩でしょう。

そのシーンは、一言も会話がありませんが、
・なかなか踏切が開かない、時間への苛立ち
・ルームミラーに写ったタクシー運転手の突き刺すような眼など
2人の心境を如実に表わすその演出は、実に見事。

そして、タクシーで旅館に向かうシーンから、ラストに至るまで、
2人の2転3転する、まさに“乱れる”ような心の描写は、
成瀬監督の真骨頂となっています。

脚本、演技、演出、
優れた3本柱によって、複雑な感情の揺れを適格に捉えた本作の完成度は高く、
“遺作” と言わなければならないことに、痛惜の念を禁じえません。
(NARUSE:No10/10)




☆☆☆(成瀬レビュー10本のまとめ)☆☆☆


成瀬映画には、黒澤映画のような強い意志を持ったヒーローや、
ドラマチックなストーリーは見られません。

平凡な人々の、小さな葛藤や機微を描く成瀬映画は、
自分たちを鏡に写したような作品でもありました。


成瀬監督は固定観念にとらわれず、俳優達の持ち味に加え、
成瀬マジックとも言うべき演出術で、絶妙な演技を引き出しました。

「成瀬演出の真髄はアクションだ」とよく言われます。

「アクション」とは、決して激しく立回る活劇のことではありません。

2人並んで「歩く」こと、 室内での「振り返り」のポジション、
そして最大の特徴であった「目線の芸」。

「同じ動作」「同じシチュエーション」で場面を転換する手法は作品にリズムを生み、
そして時には、敢えて見る側の意表を突く繋ぎの手法がありました。

さらに映像に「光と影」を加味し、
サイレント畑で育った成瀬監督ならではの躍動感を生み出し、
空間に広がりを持たらせました。

また、下町の路地や、街並、玄関から家の中を真っ直ぐに映した「縦構図」は定番で、
実に美しいものがありました。

そして、こだわりの「モノ」を使い、作品に込められた暗喩、
「チンドン屋」「電話」「猫」「雨」
これらのシーンが出てくると、思わず“待ってました!”という感じになります。



そして成瀬監督が描き続けたもの、
それは「女性の生き方」でした。

厳しい時代、社会、環境の中で、
母として、妻として、娘として、
どう生きていくかを、成瀬監督はひたすら描き続けました。

成瀬映画の中に度々登場した、強い母、気丈な妻、尽瘁する娘。

成瀬映画のヒロインたちは、お金に困ろうとも、不幸に襲われようとも、
力強くそれを乗り越えようとします。

そんな逞しい女性達から見えてくる、前向きさ、悲しみをはね除ける力、
そして「生きる」ということが、成瀬監督が描いた主たるテーマだったのだと思います。

日本映画界の巨匠、成瀬巳喜男監督に、謹んで敬意を表したいと思います。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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  • 不気味
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