日本のベスト戦争映画
- alienkino エイリアン・キノ さん
- 2008年4月8日 23時37分
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日本の戦争映画の最高傑作。ただし、戦争と政治、マスコミの関係を描いたと言う意味での傑作だ。
最近の傑作の『男たちの大和』でさえ、メカや戦闘、家族との愛情の場面はていねいだが、戦争の背景は描き足りない。しかし、戦争の現実を十分に理解するためには、政治・社会の背景も勉強したい。たとえそれが、言葉の多い政治家の駆け引きのストーリーになるとしても。
この『軍閥』は、冒頭で「史実を元にフィクションも加えた」と誠実な字幕が出るが、歴史専門家が述べる歴史の基本をゆがめることはしていないようだ。第1のテーマは、軍と東條が、2.26クーデタのあと、いかに政治家を抑えて戦争への道を進んで行ったかという点だ。天皇陛下が「平和愛好家」としての発言をするが、陸軍がアメリカの求める中国侵略の中止・撤退を拒否し、外交交渉にも熱心でなかったので、戦争の道しかなかったこと、石油禁輸を受けて海軍も作戦を急いだことなど、おおむね事実のようだ。
第2のテーマは、マスコミの責任だ。もちろん、マスコミが戦争を煽ったと批判する以上に、言論報道を厳しく統制した政府と軍の責任を忘れてはならない。(右派の評論家には後者を無視する人が多い)。映画『太平洋の嵐』でも描かれるミッドウェー海戦の大勝利発表のウソ、日本を救おうと「このままでは日本はアメリカに負ける」と批判的記事を書いた勇気ある新聞記者の運命(実話を基にしている)などが見所だ。戦場シーンでは、サイパン玉砕を、標準的なスタイルだがていねいに描いている。
映像は、他の戦争映画の特殊撮影(真珠湾攻撃)や戦争中の各種記録フィルムを活用するという効率的なやり方をとり、むしろ製作のエネルギーを、政治家と軍人、マスコミ人の心理と言動を描くことに注いで、膨大な歴史をしっかりまとめている。監督のまじめさと問題意識は、尊敬に値する。2.26事件での政治家暗殺の場面もすごい(これも他の映画の再利用かもしれないが。)
おまけだが、知る人ぞ知る、ミッドウェー以上の大敗北だったマリアナ沖海戦の特殊撮影シーンが見られるのにも、興奮してしまった。この海戦は、日本にとってもアメリカにとってもあまりに一方的で、ほとんど映画の題材にならないのだ。もっとも、他の映画のミッドウェー等のシーンを転用したような感じではある。
作曲はゴジラの伊福部さんの弟子の方らしいが、ショスタコービチのような「歴史の運命と非情さ」を感じさせる音楽で、愛と悲しみあるいはサスペンスを歌い上げる最近の映画の常道とは違い、聞いてみる値打ちがある。
少しストーリーが複雑だが、日本の戦争と軍国主義をまじめに学びたい人には、ぜひお勧めしたい。戦争の苦い記憶が残る1970年の作品で、いくらCGが発達しても、これほどのものは今は作れないだろう。
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