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沈黙 SILENCE

bakeneko

5.0

ネタバレ日本人の宗教感覚は...。

昔々高校の現代国語の教科書にクライマックス(奉行と修道士の論争対決)部分が採られていたので,現在40代以上の人の多くが一読したことがある―遠藤周作の代表作の映画化作品(作家本人も脚本に参加)で,宮川一夫が捉えた峻厳な映像の中に“基督教とは?そして日本人とは?”という真摯で根源的な問いを浮かび上がらせて,明晰な状況解剖と論理的思考を展開する“思索&宗教”映画の力作であります。 本作は,ハリウッドで日系俳優として成功したマコ岩松が,原作に惚れ込んで自身がプロディースして劇中のキーパーソンを演じた念願の作品であります(外国で暮らすと“日本人としてのアイデンティティ”に否応なく向き合わされますから,原作のテーマが身に染みたのでしょうね)。 遠藤周作の,日本人キリスト教徒である特質を生かした“基督教を俯瞰した位置から客観的に考察できる”視点で,キリスト教の本質を鋭く考察しながら一方で,自己洞察による日本人の宗教感覚の解剖によって,私たちの中にある“宗教観”を抉り出して見せてくれる知的探求作品で,原作&本映画は“基督教にどっぷり首まで浸かっている”(=基督教が最も優れた宗教だと思っている)欧米人が思いもしなかった基本的問題点を呈して,当時の世界文壇&カンヌ映画祭でセンセーションを起こしたのであります。 江戸時代前期のキリシタン迫害時代の長崎を舞台にして,布教の情熱から日本に密入国した主人公が,異郷の地=日本で対峙することになる―“キリスト教の本質と論理&倫理的矛盾点“は,観る者を知的考察に導いてくれます。 また,弾圧を加える日本側の官僚的&形式的な権威主義や,迫害される隠れキリシタン側で次第に歪められて土俗的な神と融合していく基督教の姿に,日本人の本質を浮かび上がらせている作品でもあり,サマセット・モームの“雨”にも通じる“基督教と西洋文明の脆弱性”へと物語を着地させていくのであります。 苛烈な宗教弾圧を自然の中に映し出す―宮川一夫のカメラは厳しくも美しい映像を見せてくれます(今回は昼の撮影を夜に加工する“疑似夜景”も多用されています)。そして,音楽の武満徹はバッハ調の音楽で異郷での西洋宗教の不具合感を演出しています。 主演のディヴィッド・ランプソンは難しい内性的な役を頑張って演じていますし,明晰な奉行:岡田英次,俗気漲る通訳:戸浦六宏,和製“ユダ”=キチジロー:マコ岩松は挙って原作の人物像に血肉を与えていますが,殺風景なドラマに彩りを与えるべく登場する―三田佳子&岩下志麻はちょっと浮いていますし,張り切って大怪演の丹波哲郎は...(登場シーンで前列の男性が吹き出していました)。 本作の最大の弱点は,原作&史実がポルトガル人であった主人公が映画では英語を話すことで,違和感が半端じゃないのですが,これはしょうがなかったのでしょうね...(でも,単に声を吹き替えれば良いのでは!とも思いました)。 原作を読んだ人は“上手く映像化したな~”と敢闘賞を上げたくなる作品ですが,中盤の主人公と相棒の神父が何故別れたのか?や,最後の主人公の唐突な行動変化等,説明不足の部分も散見されますので,興味をもたれた方は原作も読まれるとよいと思いますよ~。 ねたばれ? 1,本映画&原作のクライマックスは,西洋と東洋の知性が衝突する主人公vs奉行の論理合戦ですが,同様にキリシタンの迫害下に修道士vs新井白石の論争を無神論的なスタンスでセミドキュメンタリー風にドライに活写したのが,坂口安吾の短編“イノチガケ”であります(比べてみると面白いですよ)。 2,“なんか変な奴の番人になっちゃったな~”と,苦労する殿山泰司が一番自然な日本人を感じさせます。 3,物語のクライマックスでの劇的な音の場面(=いびきのような音)の場面で隣のおっさんが本物のいびきを...やはり日本人の宗教への態度っていい加減だなあ。

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