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忍ぶ川

忍ぶ川

120

dtm********

4.0

ネタバレ社会派熊井啓監督のデカダンな恋愛映画

 タイトルの「忍ぶ川」とは、ヒロイン志乃が勤める料理屋の屋号。大学生の哲郎は志乃に会うために、その店に通うようになりやがて結ばれる。本来結ばれる筈のない男女が、偶然に結ばれてゆくという過程を中心にした恋愛のドラマだ。  原作は芥川賞を受賞していて、主人公は作者と同じ名前。つまりこの物語は私小説がベースとなっている。主人公の出自が物語に大きな影を落としている。哲郎の実家は呉服問屋をしている、いわば豪商のたぐいの家であった。ところが彼が6歳の誕生日に姉が自殺たことを皮切りに、相次ぐ不幸や不祥事が重なりやがて家運は大きく傾く。そんな家の変遷を、哲郎は自らの宿業のように捉えている。  映画の雰囲気は暗く、短調のトーンである。宿命にいたぶられ生きることをどこかで避けようとしている哲郎。彼の前にあらわれたのは、不幸な家庭に育った志乃であったとは何とも不思議なめぐり合わせというほかはない。  だが物語は彼らの復活へとむすびつく。結末はハッピー・エンドなのになぜかそうは見えない、重いデカダンが作品全体を覆っている。それは現実をそのままに受け入れられない哲郎の(そして作者の)心情を映している。  硬派の社会派として知られる熊井啓監督だが、この作品に関する限りは芸術性を前面に出して、物語にそしてふたりの主人公にしっかりと寄りそう。ラストで栗原小巻と加藤剛の演じる性愛の場面は物語として重要なものである。体当たりで演じた栗原の美しさは比類のないものだ。

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