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野良犬 (1973)

監督
森崎東
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3.77 / 評価:61件

これがリメイクするという、意味なのだ

  • ser***** さん
  • 2009年5月6日 3時19分
  • 閲覧数 1131
  • 役立ち度 15
    • 総合評価
    • ★★★★★

先日、リメイク版「隠し砦の三悪人」を見た。
泣けてきた、あまりのひどさに(笑)。ここまでオリジナルを《改悪》する意味は何よ?そもそもいくら借金で身動きがとれず権利を売らざるを得なかったにしても、息子、あんたはここまで親父の作品をズタズタにされて怒りも抱かないのか。もう、泣きたいのは我々映画ファンである。もう夢も希望もありませんがな(泣)。

当然この言葉は他の黒沢リメイク作品にも言える。三船の真似しても似合わん「椿三十郎」、これじゃ単なる逆恨みじゃ、というTV版「天国と地獄」、お涙頂戴の三流メロドラマのTV版「生きる」と、ファンの期待を裏切る作品ばかり。そりゃ作った方は言い分もあろう。あれだけの製作時間のかかる作品を現代じゃ作れって方が無理だとか。なら答えは作るんじゃない!リメイクすんじゃない!(笑)それでも作るのだったら観客にちゃんと見せて欲しいのだ、リメイクしなきゃいけない理由とやらを。どうしても今でなきゃ描けない何かを。それを無視してリメイクした作品は古今東西全てクズだ。それを越えてこそ偉大、リメイクした意味がある。張本を越えたイチローの凄さがあるのだ!(なんのこっちゃ)まさにリスペクト、プラス現代への挑戦である。

実はそんな黒沢リメイクにも一本、成功例がある。それが「野良犬」、70年代に東宝とは毛色の違う松竹でリメイクされた作品。この作品を先日久しぶりに見た。いやあ「隠し砦~」の不満が一気に解消される様な力作だった事に改めて感激。
そもそもこれはリメイク、というよりも拳銃を盗まれる、というシチュエーションだけが共通で、物語が進むうちに別の作品へと変わっていった作品と言ってもいいかもしれない。だがここにこそ《リメイク》の本当の意味がある。つまり、何故70年代にオリジナルの流れを変えてでもリメイクする意味があったのか、という答えだ。
それはズバリ《沖縄》。

近くて遠い国、という言い回しがある。今では北朝鮮の事を指すのが主だが、70年代のある時期まで、それは《沖縄》の事をさしていた。今でこそブームにのって沖縄はもてはやされてはいるがこの当時、アメリカから返還されるまで沖縄は《外国》だった。占領されたまま、日本人でありながら二重の辛苦を舐めてきた沖縄の人々。そんな彼らを見る《内地》の人間の差別的視線。この《視点》なくしてこのリメイクは語れない、いやそこにこそ作らねばならない意義があった。彼らが夢と希望を持って本土にやって来たのに純朴な彼らを《野良犬》に追いやったその現実。オリジナルがその背景に《戦争》があるのなら、この作品もまた《戦争》により引き離された沖縄の《今》がある。そしてこの《今》は全国最低基準の生活を未だに強いられている現実を一層強く滲ませて、今見直す我々の胸にもズシリ、と拳銃の弾丸の如く貫いてくる。

オリジナルは同じ《戦争》が生んだ悲劇を野良犬の眼を持つ二人の男の対比によって描いたが、こちらは沖縄から集団就職で出てきた野良犬青年達の本土とは相容れない孤独感が強くなっているのはまさに《時代》であろう。この年、沖縄が返還され、ようやくパスポートなしに本土と行き来出来る様になった表向きとは裏腹に、それでも「日本人ではない」という視線に苛まれてきた人々の内面を怒りをこめて描くには、オリジナルをただ脚色すれば事足りるといったものではない、まさに《リメイク》=再映画化する動機が必要だったのである。
彼らを野良犬にしたのは誰か。オリジナル=戦争、リメイク=日本そのもの。
まさにこれこそ《リメイクする》という意味なのである。

森崎東は松竹の監督でも一番シニカルな視点を持った私の敬愛する監督だ。彼の撮った「寅さん」は山田作品とは異質の匂いがする。松竹の《人のいい小市民》とは違う、《人間臭い小市民》を描き続けた森崎監督は、黒沢とは違う《ヒューマニズム》によって黒沢レシピを料理した。その結果生まれたのはまさに70年代だからこそ描けた「野良犬」。これを無視して黒澤映画のリメイクはありえません。

映画は時代の鑑である。
なら現代の黒沢リメイク作品はまさに浮かれた日本映画の鑑であろう。洋画よりも興行がいい、という看板にすがり、先人の苦労を顧みずにビジネスとして割り切った人間たちの作るリメイクには正直、作家の《魂》が欠けている。黒澤が仲間達とともに知恵を出し合い血と汗を流して創作したオリジナルを超えたいとも思ってない不遜な輩が作るリメイクに何の価値があろうか。
それに比べてこの「野良犬」は必見だ。ここには森崎東が正面きって黒沢に挑んだ魂がある。まさに森崎しか出来ない視点で挑んだリスペクトがある。まさに野良犬、活動屋魂。

面白くなきゃ映画じゃない?答えは否。
《記憶》に焼きつかなきゃ映画じゃない。
これはそんなリメイクだ。

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