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心

90

daw********

4.0

暗さ最高。ATG版「こころ」

文学や読書に興味が無い人でも、一度は読んだことが あるか題名ぐらいは知っているんじゃないかと 思われるのが、夏目漱石の「こゝろ」という作品です。 わたしも中学生だったか、初めて読んで明治知識階級の 道徳心というのを垣間見たような気がして、それが どことなく知的好奇心をくすぐり、またそれ以上に 明治高等遊民への憧れも伴って、何度も読み返しました。 「友情」と「恋愛」の葛藤に苦しみながら友を裏切り、 自己欲求を優先したがゆえ、苦悩の人生を歩むことに なってしまった一人の男の話を三部構成にして 書き上げた小説です。 この夏目漱石作「こゝろ」の三部目をベースに新藤兼人 監督が脚本、監督を務め映画化したのがATG映画「心」 です。映画では時代設定を明治から現代 (昭和48年ぐらいの設定)に移しているのですが、 原作に忠実なシナリオであったがために人物描写に やや無理があったようで、限りなく明治精神に近い 昭和という、ちょっとアンバランスな感じの仕上がりに なっています。それでもATG特有のまったり感たっぷりで 終始、暗い雰囲気で進んでいきますので、ATGファンには たまらない作品になっています。 K(松橋登さん)は、軍人の未亡人M夫人(乙羽信子さん) とその娘・I子さん(杏梨さん)の住む閑静な日本家屋の 二階に間借りをすることになります。直にKはI子さんに 恋心を寄せるようになるのですが、そんなとき、Kの親友で あるS(辻萬長)が神経衰弱のようになってしまいKは M夫人を説得してSを隣室に住まわせることにします。 引っ越してきた当初は意固地で他人を寄せ付けない 感じのSだったのですが、徐々にM夫人やI子さんに心を 開いていきます。ある日のこと、SはKに自分はI子さんに 好意を寄せていると打ち明けます。勿論、KもI子さんを 好いています。このままではSにI子さんを奪われてしまう。 そう考えたKはSの不在を見計らって 「お嬢さんを私に下さい」とM夫人に訴え結婚の了解を 取りつけます。しかし、このことを知ったSは自殺して しまうのです。罪悪感に苛まれる年月を過ごすK。 やがてKも覚悟を決めるのです。 登場人物も少なくて、会話も一本調子でのやり取りが 多く、作品を通して重苦しい雰囲気が充満して息苦しい 展開が続きます。K役の松橋登さんは甘いマスクで 通りのいい声をしていて、貴公子のようなタイプなん ですが、どういうわけか犯人役やらの悪役が多かった ですね。Gメン75なんかではいったい、何度、捕まれば いいのというぐらい犯人役ばかりやっていたような 覚えがあります。都会育ちのボンボンで悪事に手を染める といった役柄がお見合いでした。 M夫人役の乙羽信子さんはベテランの味をたっぷり出して 落ち着いた演技。Kのすべてを見透かしているような 感じを表情だけで巧く表現しています。 I子役の杏梨さんですが、感情を抑えた感じがいいですね。 おそらく演技ではない棒読みの台詞回しが、この作品では 完璧にフィットしていて、陰鬱な雰囲気であるべき作品の 流れに溶け込んでいます。ただ、意識的にやっている わけではないのでこの作品限りの名演技といったところで しょうか。 *杏梨さん。その昔、スポ根青春ドラマ「コートにかける青春」 に出演していたのを思い出しましたが、残念ながらこれ以外に 出演した作品は知りません。肉感的でなかなか面白いタイプの 女優さんではあると思ったのですが・・・・参考URL↓ 文芸作品の映画化としては成功しています。 まったりとしながらもいろいろな感慨が浮かんでくる 秀作です。

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