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正午なり

gam********

4.0

彼の意識は、急速に、ただそこに集中する

まひる、と読む。 原作の丸山健二という人は、2003年に綿矢りさが受賞するまで 実に37年間、彼が芥川賞最年少受賞者だったという、才人である。 作家たるものいろいろな逸話はあるがいわゆる中央の文壇に迎合せず、 野にあって反骨のスタイルを貫いていると記憶している。 どこかに優しすぎる心を持ち合わせた金田賢一は、都会の生活に疲れ果 て田舎に帰って町の電器屋に勤める。 父も母も自分たちが食べる生業の農業に手一杯で、彼を決して歓迎はし なかった。 若い彼のまわりには様々な若い者が自分の生活を生きている。 悪友やホステスや牧場の娘。 そんな中、一人で山歩きをするような好青年の顔と 性衝動をこらえられなくなる極端に脆弱な理性との間で 彼の心はゆっくりと、ある振幅を刻み始める。 原田芳雄・手塚さとみ・南田洋子・長渡裕之・萩本欣一らが脇を固め ている。 仲間はこの田舎にあっても器用に生きていく。 自分だけが取り残され、漫然と滑落していく感覚。 彼はここも出ようと思い立つ。 バス停。 なじみの若い女が見える。 彼の意識は、急速に、ただそこに集中する。 彼は意識だけの存在になる。 あとを尾けて、倒し・・・。 やがて、殺害現場を離れ彷徨をはじめる彼の顔には まるでやっと解き放たれたかのような、穏やかな表情が・・・。 映画は時として、見る者にカオスをもたらす。 現実に人は、様々な関わり合いの中で生きている。 生きていれば起きる大小の、歓迎・反発・無視・そして裏切り。 最近知るところでは、特にこの「裏切り」に過敏な青少年が多い。 本当は裏切りでもなんでもないのに思い込む自意識の強さが見える。 もともと希薄な人間関係の中で「あいつが裏切った」ということがどこ にも消えていかずに、胸の底に澱のように溜まり ある日ついに、取り乱すほどの存在となるらしい。 人間、上品になったものだ。 そのうち地上は、上品な、いいとこの、小奇麗なニートであふれるに違 いない。 思っているよりも、危機的状況にあるのかも知れない。

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