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不安な質問 (1979)

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「食の安全」の時代に―1979年に学ぶ

  • かんじゅーす さん
  • 2008年2月6日 0時50分
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 2月のボレポレ東中野は“食べる”映画特集。そのうちの一本が本作「不安な質問」、松川八洲雄氏らによる1979年制作のドキュメンタリーです。対象は、都市生活者コミューンこと「たまごの会」。(映像から判断するかぎり)多摩ニュータウンを中心に、自らの食の「まともさ」を求める人々が集まった会です。30年前とは思えないほど時代を先取りした思想に驚くいっぽう、彼らのユートピアの限界があまりにも明らかで滑稽にすら映る、両義的な作品といえます。

 都市生活者コミューンは、たぶん彼らの造語でしょう。生活共同者組合(生協)が取扱品の生産を外部に発注し、自らは物流・小売(いわゆる川下)だけを担うのに対し、会は川上から川下まで、つまり会員自ら農場を運営してトラックで配送し、各自宅まで販売ないし配達するものです。世話人会と称する代表者会議は東京で行われたようですが、映画の大半は筑波山麓にある農場の撮影にあてられています。そう、都市住民が住み込みで農作業に従事するのが会の特徴。ちなみに会の名称は、最初に手がけた食品に由来するそうです。

 たまごの会の先進性は、現在僕らが騒いでいる「食の安全」の意味内容をほぼカバーしていることにあります。とくに、生産地表示(保有農場で全生産)やトレーサビリティ、品質保証(消費者が生産者を兼ねることで実質的に機能)、しかも食物循環型社会を構築していました。いまなお残飯大国に君臨する日本ですが、会では徹底的な分別のうえ(人間が食べられるとわかれば家庭に突き返す!)保有農場のブタに食わせ、自ら潰し、再び食卓にあげていました。これって、いまなお学校給食や一部のコンビニ廃棄物でしか行われていません。個人生活者にとって残飯リサイクルの最大の難関はその運搬方法。会の例では、トラックの行きは人間の食物、帰りはブタの餌と非常に効率的な手段を用いていて、僕らも参考すべき方法です。

 余談ですが、ほんの30年前までは「家畜を屠る」ことが身近にあったんだな、と感じました。当時の大人の多くが農村出身ということを考慮しても、団地内でブタの頭を運んだり、子どもと笑いながらブタやトリを潰して毛を毟る姿、名前をつけてかわいがっても、家畜は家畜。いまなら親子ともども悲鳴をあげそうです。このいい例が92年、大阪府東能勢小学校(豐能町)でおきた「ブタのPちゃん事件」。食べることを前提に(当初児童には告知せず)学級で育てたブタを潰すことを担任が提案すると、それが「教育」に値するかをふくめて大論争になりました(妻夫木聡さん主演「ブタがいた教室」で今秋映画化)。昨年の話題作「いのちの食べかた」につづき、あまりにも当然になりはてた「食」の由来を、身をもって知る機運が高まっているのでしょうか。

 斬新な特徴をもったたまごの会ですが、現在(日本有機農業研究会に改称)では、数ある同種団体のひとつ程度の位置づけのようです。それは、この会が結局「金持ちの道楽」にすぎなかったからだと予想します。世田谷発祥の生活クラブ生協と同様の問題といえましょう。

 第一に、会は経済面で趣味サークルと同様の脆弱性を抱えていました。映画の冒頭、出資金やカンパの扱い(とくに出資金の取り下げ)をめぐって世話人会が紛糾する場面があります。そこでは10万円、13万円と、当時としてはかなり高額な声が飛びます。もちろん、このお金は会員が(農業ではなく)会社勤務で得たもの。食物は循環していましたが、お金は循環することなく会の運営につぎ込まれる一方だったと推測されます。ちなみに、日本で専業農家が完全に自立するには15ha(最低10ha)の耕地が必要といわれます。これを達成したのは道東の一部農家のみで、多くの農家はいまでも5ha前後(つまり兼業農家)。しかし、会の農地は会員数を考えるといわゆる「五反百姓」級と思われるのです。

 第二に、彼らにとって農業は「選択肢のひとつ」ないし「本業の余暇利用」にすぎませんでした。ここが本業の農家と決定的に違います。農家は効率化のため航空防除をし、区画整理や機械導入を重ねていました。いっぽう、会は農家に抗議旗を掲げ、稲作から畜産まで手作業。現在なら価格面で差別化できる生産方式ですが、当時はそのような市場がないうえ、販路が会員に基本的に限定されていたため、会の生産物に付加価値はつかない構造でした。

 最後に、当の会員が農業を無根拠にユートピア的に捉えていた節があります。ここが70年代思想の面白い点で、コミューンの語源「コムーネ」や派生語「コミュニズム(共産主義)」に通じる閉鎖性や農業ユートピア思想が、彼らの口端から窺えました。共産主義がどうなったかは、歴史の示すところ。

 本作は東京国立近代美術館・フィルムセンターに所蔵されています。食への関心が高まっているいまだからこそ、観る価値の高まる映画です。

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