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男はつらいよ 寅次郎春の夢 (1979)

監督
山田洋次
  • みたいムービー 4
  • みたログ 238

3.42 / 評価:85件

キャッチコピーがアメリカの寅さん

  • shinnshinn さん
  • 2020年9月20日 6時45分
  • 閲覧数 347
  • 役立ち度 2
    • 総合評価
    • ★★★★★

1979年劇場公開の<男はつらいよシリーズ>第24弾。今回は寅次郎の恋のエピソードはやや薄めで、ひょんな事からとらやに居候する事になったアメリカ人の行商人マイケル(ハリウッドの中堅俳優・ハーブ・エデルマン)が心密かに人妻さくらに思いを寄せる、淡い恋路のエピソードがメインです(お約束のカタマリのシリーズとしては、やや異色な作品に仕上がっているが、僕は嫌いじゃない)。


人妻への思慕が切なく、受けに徹する倍賞千恵子のお芝居が割といい。蝶々夫人に扮した倍賞の歌声は流石、もと松竹歌劇団といった感じで本物です。アメリカ人と日本人の悲恋のマダム・バタフライに、自己を投影するマイコさん(マイケル)と、そんな悲しい男に自己を投影する寅次郎の共感が、始めはよく思っていなかったアメリカ人への人種を越えた友情へと変化してくる。日本での商売に失敗して故郷に帰るマイコさんを、寅次郎が見送る上野駅のガード下のもの静かで優しいシーンがクライマックスです。


ストレートにものを言うアメリカ人と、空気で忖度する日本人や、感謝や愛情をハグで表現するアメリカ人と、滅多に他人の体に触れることのない日本人、ケンカの時のボクシングと空手など、脚本にはアメリカ人と日本人の文化や習慣の違いが散りばめられています。人の体に触ったり、触られたりすることは、精神安定上、非常に良いことらしいのだが、オジサンと抱き合ったりするのは、やっぱり不快だ。人の奥さんとハグして、もし好きにでもなったらどうしょう、などと馬鹿マジメな事を考えてしまう(笑)。


ヒロインは香川京子さんです。成瀬巳喜男、今井正、小津安二郎、溝口健二、豊田四郎、稲垣浩、黒澤明、山本薩夫。日本映画の黄金期50年代に、香川京子さんほど巨匠たちから使われた女優さんも珍しい。監督の山田洋次も第一作の「男はつらいよ」(69)のとき、ヒロインは香川京子さんでやりたかったのだが、その時点では作品がシリーズ化される事も、松竹のドル箱になる事も予想出来ず、製作費の関係で香川京子のキャスティングは見送りになったそうです(結果論だが、第一弾のヒロイン・光本幸子は非常に良かった)。


エンディングはお約束、旅先での寅次郎の啖呵売のシーン。ここに郷愁を誘うテーマ曲をかぶせて終わり。お正月とお盆は<寅さん>という、一種の風物詩になった人気シリーズ。「家族全員で見に行こう」みたいなのが松竹の明確な戦略だった。


実はこのシリーズ、自分はあまり好きじゃありませんでした。小学生にはまだ恋愛の機微や人情は理解出来ないし、何よりも、渥美清の笑いのセンスが、どうにも古臭くて笑えない(わざとらしく、不自然に感じるのだ)。周囲の人間も寅さんを<困った愛すべき人物>のように扱うのだが、こんな人が身内にいたら、本当にもう迷惑だと思う(笑)。ニューヨークのインテリあたりが、夕食時分の突然の来客に、「じゃあ一緒に夕御飯でも」と誘い、「それじゃあ、お言葉に甘えて」と居間に上がり込む来客、みたいなシーンの自国にはない文化や人間関係に感激するらしいが、そのわずらわしさが僕はキライなのだ(冷たい奴と言われてもショウガナイ)。作家の小林信彦さんは、この映画における下町文化(厳密には葛飾は下町ではなく、門前町もしくは東京の田舎と言っていたと思う)のようなものにはウソあり、実際、自分が暮らした両国には、こんなベタベタとした隣近所の関係性はなかったと言っていました。


国民の期待(あるいは松竹の方針)にこたえ、寅さんシリーズをライフワークにした山田洋次は立派だが、シリーズの合間に監督した、「家族」(70)、「故郷」(72)、「幸せの黄色いハンカチ」(77)、「息子」(99)あたりの方が、映画としては断然、優れていると思う。山田洋次は国民的監督という名誉と引き換えに、国際的巨匠という海外での可能性を捨てたと僕は見ている。


作家の小林信彦さんがどこかの本に、本シリーズ以前のテレビ版(68~69。僕は未見。全26話だが現存するのは1話と最終話のみらしい)の時点では、車寅次郎と妹のさくら(テレビ版では長山藍子)の関係性に、<腹違いの兄妹>という微妙で、ややキケンでもあるニュアンスがはらんでいたと、文学的で深みのある指摘をされていたと思うが(記憶違いだったらゴメンナサイ)、そんなややこしいファクターを一切排除した山田洋次の先見性には脱帽。初期のストーリーラインを追ったら、ここまでの長寿シリーズには引っ張れなかったと思う。山田洋次のおかげで、シンプルに<困った兄貴と健気な妹>という鉄板の構図が確立し、観客も腹違いの兄妹という経緯は、ほとんど意識して見てはいない。


<男はつらいよ>をもっと見たいというファンもいるかもしれないが、寅さんは渥美清以外では成立しないので、ジェームズ・ボンドのように2代目車寅次郎みたいなのは無理なのだ。

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