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五番町夕霧楼

kih********

5.0

金閣寺ではなくて、夕霧楼なんだ。

 そうか、そういうことであったか、と納得のいく作品だ。男女の純愛、貧民の悲哀、宗教界の矛盾、等々どれをとってもそれぞれにひとつの作品に展開されるテーマだが、それを金閣寺炎上の背景としてたっぷり描き切っている。  そう、今の世界では純愛などというのが恥ずかしくなるような男女のあり方が、不必要なまでの感傷にならず、淡々と(そして、矛盾するようだが)激しく、更に美しく描いてある。  身売りをしなければ家族が破滅するという貧しさ。これが昭和25年頃、つまりは戦後5年目の頃だ。今の格差社会というのとは訳が違う。若い修行僧がいう「将軍が金に任せて作った(豪奢な)寺を、後の(貧しい)僧が“守る”というのはおかしい」というのは当たっている。(だから放火・破壊していいかどうかは、簡単には言えないけど。) ―― 実は、同名の映画が複数あることを知らず、うっかり、店頭にあるこれを手にした。でも、これはこれで十分見応えがあった。お目当ての、1963年版田坂具隆監督・佐久間良子主演の『五番町…』を続けてみることにする。――  これも一種の歴史劇といえる。恥ずかしながら、五番町が「有名な」遊郭街であることも、「水揚げ」という言葉が、漁業、水商売、生け花とは別に、花街でも使われていたということも知らなかった。  通称・金閣寺が正しくは鹿苑寺というのは知っていたが、鳳閣寺というのは知らなかった。本当にそういう名称なのか、花街で言われていたのか、原作者による造語かは知らない。ただ、本作のタイトルが金閣ではなく、『五番町…』であること、作中にも金閣の名を出さないことからも、庶民・貧民の心意気みたいなものが感じられる。  金閣寺は再建されて世界文化遺産。五番町の遊郭は現在どうだろう。再建か保存かされているだろうか。まさか「文化」ではなかろうけど、「遺産」ではあると思うが。

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