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四季・奈津子

真木森

5.0

女優奈津子、いや80年代的女性羽化の破顔

 話題になっていたのはちょうど中学校入り立ての頃。第6代クラリオンガールだった烏丸せつこは当時の青年諸君垂涎の@@ペットだったようですが、私はそれに遅れて10代になったので「そういう人がいたなあ」くらいの感触で、どちらかと言えば『マノン』やビートたけしとのスキャンダルがあったことで記憶に残っています(今にして思えば『すっかり…その気で!』で共演したのがきっかけだったのですね)。それで公開されて30年も経った今何気なく手にして初めて見てみたのです。そしてびっくりしました。烏丸せつこはビキニにこそなれ脱いでいたイメージはなかったのですが、冒頭から普通に着替えシーンで惜しげもなく裸をさらしているじゃないですか。それどころかベッドシーンが何度も出てきて相手は風間杜夫に火野正平(「暑い暑い」とか言って烏丸せつこの服を脱がす手練れにさすが筋金入りの女たらしと変に感心しましたよ)。そして想像はしていたものの肢体は実にスレンダーかつグラマラスで、その日本人離れしたプロポーションに感嘆しました。あの乳房の形は洋梨型というのでしょうか、それとも釣り鐘型というのでしょうか。そして現代のモデルでもそうお目にかかれない優美なウェストライン。小さいお尻にすらっとした脚。そして顔がまるで雛人形のように純和風にまとまっているのにも気付かされます。「知らなかった! こんなスーパーヒロインが80年代の初頭に存在していたなんて」  同じくらいに驚かされたのが監督東陽一の艶やかな画面作りです。見事にATGしていたのです。本編でも浴衣姿の少女がポンポンと風船を打ち上げながら和室を抜けると棺桶の中の父(「ケンちゃん」シリーズのお父さん牟田悌三!)、少女はいつの間にか烏丸せつこになっているという不思議なシーンがあります。「何これ」「意味が分からない」と一般的には言われてもおかしくない場面ですが、ATG的映画文法を知っている私にとっては懐かしくてたまらない画面展開です(不慣れな方のために一応解説しますと、これは少女時代のノスタルジーと庇護者である父に訣別して、東京で独り立ちする決意を自分に飲み込ませるという心象風景のメタファーで、例えば寺山修二さんの一連の映画を見てきた当代の人達にとってはすぐにそれと分かる暗喩です)。それに奈津子が新幹線の車内で偶然すぎるくらいの不自然さで詩人田村隆一の隣席になり、実録ドキュメント風にその語りをうんうんと聴いている実験的ショットの新鮮さ。まあはっきり言って田村隆一の魂云々の語りはイタい親父がウザく説教している風にしか見えなく「うるさいよジジイ」と思ってしまい、烏丸せつこの若々しい爽やかさに「こんな風なら多くの芸能界の先達がNHK-FMの「サウンドストリート」で彼女に手玉にとられたのは分かるなあ」という印象しか残りませんでしたが、でもこういう挑戦が出来たのもATGが育んだ感性ならではだったと思うのですよ。それ以外にもスライドに映る自分の裸体に重ねるように自分自身もポーズをとったり、映画内映画の撮影現場の外側から撮って突然切り替わりどう見ても本当のマンションを使ったロケ撮感触の画面で「OK!」この時の破顔は最高で、女優奈津子=烏丸せつこ誕生の決定的シーンです。  作品の全体像もポスト70年代を象徴していて本当に懐かしい感触です。幼虫が羽化して蝶になる変態の狭間を撮りたいと言われて東京に旅行に行く奈津子。彼女に影響を与えるケイは阿木耀子(本編では彼女まで美しいヌードを見せます)。逡巡し故郷に別れを告げ、さりとて東京に出てきてもヌードを撮ってもらう以外に何をする訳でもなく、自分は何者でもない。そして有名俳優(岡田真澄!)に誘われて女優の道を歩んでいく。「真夏の光みたいに生きるのよ」「私にとって、魂とは肉体のことだわ」五木寛之作品にありがちな生硬さと甘さ、緩さは割り引いても、今なお若い女性の自立物語が本作の域を出ていない事を考えると80年代初頭という時代のコンテキストが生んだ作品力というものが物語世界を強固に支えていたのだなと感嘆する訳です。  最後に、本作のキャストが今も日本の映画界を支えている人材に育ったことは本当に凄い。風間杜夫に佳那晃子、ちょっとだけ登場する山谷初男と宮本信子、そして何と言っても怪優になる前の若き本田博太郎。彼の撮ったヌードは本物の感触がしていましたが、篠山紀信によるものらしく「やっぱり凄い!」予告編で流れる高橋洋子“ボスホラスの海へ”は名曲(i-TUNEには入ってないですがU-TUBEでは聴けます)。監督役でなく男優役の藤田敏八、評論家役でなく監督役の白井佳夫。でもやっぱり最初に戻って烏丸せつこです。最近また銀幕でよく見かけますがいい歳の取り方をしていて年相応の美しさに敬服します。当時のスタッフが集まって四部作最終話『四季・亜紀子』を作って欲しいと願ってます。

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