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ふるさと

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5.0

地味だが優れた、人間の交流を描いた作品。

あの徳山ダムで有名になってしまった、徳山村を舞台にした映画。 地域の自主上映で、久しぶりに見ました。 最初に見たのはいつだったろう。 確か、封切りの時に、当時の下宿の大家さんに勧められたんじゃないかと思います。 当時、下宿の大家さんは、子どものための優良映画の鑑賞事業をしていましたから、地味だけどいい映画をたくさん紹介してくれました。 それから、この映画、揚水発電(注)のダム問題にかかわっている時に16mmフィルムを背負って村の中を巡回上映したことも思い出します。 会場によっては誰も来てくれなくて悲しかったもんです。 そりゃそうだ、村の有力者のほとんどがダム建設に賛成している中で反対派の映画上映会なんて誰も来てくれるわけがありませんよ。 そんなことも分からずに一生懸命上映会をしていた自分が可笑しいやら懐かしいやら…。 あれはまだ結婚する前だったなあ、たしか今の女房と歩き回ったもんです。 さて、この映画、久しぶりに見て、ダム問題というよりも、老人と子どもの交流の映画として素直に感動してみることが出来ました。 最初に見たときは、随分と古臭い映画だなと思ったものだし、ダム反対運動をしていた時は、ダム問題の視点からしか見られなかったのですが、歳をとると、純粋な人間の交流の物語としてみることが出来ました。 加藤嘉演ずるところの老人が孫と釣りを通して交流し、ボケかけた記憶に人間の尊厳を取り戻します。 老人が孫に伝えたことは、「お前を愛している」ということと、釣りの技術だけでした。 自然が大切だの、ダムは問題だのと説教臭いことは何も言いません。 老人の最期のシーンには涙しました。 うちの高校生の息子も「素晴らしい」と言っていました。 だからこそ、非人間的な手法で進められるダム建設に怒りを覚え、優れた環境啓発映画ともなっているのでしょう。 この作品、監督の話ではモスクワ映画祭で加藤嘉の主演男優賞だけでなく、作品賞もほぼ決まっていたとのこと、それが、当時のソビエト体制の「革命的な映画に賞を」という意向から作品賞を逃したとか。 ちょっと残念ですね。 樹木希林の若いのにびっくりしました。 注)揚水発電というのは原子力発電による夜間の余剰電力によって、下部ダムの水を上部ダムに戻し、昼間のピーク時に発電するという、完全に原子力発電とセットの施設。 結局、経済情勢の悪化から電力需要は伸び悩み、原子力発電所と一体の揚水発電所の計画は頓挫。 僕たちは胸をなでおろしたわけだけど、ここにきて、原子力発電所の事故。 あの運動のおかげで、電力について多くのことを学んだし、原子力発電の問題が技術の問題より(もちろんそれもあるが)政治的な問題なのだということが良くわかりました。

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