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人魚伝説

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5.0

ネタバレ潮の香りと不穏感

人魚伝説。すごい、そして怖い、強烈な映画でした。 この映画について語ろうと思えばいくらでも語れる。そんな映画です。 みぎわ(白都真理)の、すらりとした刃物のような美しさ。巧みすぎると言ってもいいカメラ(前田米造)、そして美しい海中の景色、狂おしくも儚い色調のサックス、実に素晴らしいと思います。 ストーリーはひょっとすると好みが分かれると思いますが……ぼくは中盤飽きが来始めてて……うーんちょっとな……と思っていたのですが、これは被害者となっているみぎわがいつまでも行動を起こさないこと(正確には行動を起こすまで、みぎわの心理がなかなかくみ取れないこと)が原因で、一体この映画の方向性とは何か? という疑問が長く停滞してしまうので……そこは我慢して見続けなきゃいけないと思います。ただ「あいつら許せない! 夫の仇、絶対取ってやる!」とか叫ばれると、それはまったく方向性が変わってしまうと思いますので、この長いゆったりとした沈黙の時間はどうしても要るんだと今では思っています。 海辺の街の、この倦怠感、潮の香りが画面の向こうまで届くようで好きです。錆びてる壁とかいいですよね、汚くって、味があるんですよ。 夜の風景の雑然とした感じ、最高です。撮り方非常に上手ですよね。 この映画を語る上で欠かせないと思うのが、セックスシーンと殺害シーンの長回しとカメラの動き、だと思います。この手法にも好き嫌いはあると思います。流血がとにかく嫌だと感じるとか(てかぼくも意味がなかったら嫌です)、セックスシーンがとにかく怖くておぞましいとか、よくわかります。 ラストの虐殺シーンは圧巻ですよね。ここは唯一、好きとか嫌いとか、そういうのを超越して、みなを巻き込んで強烈なテーマをぶつけてくるという見事なシーンになっています。長いです。でもその長さに意味があるような気がします。 さてここで長さを正当化するテーマの話なんですが、これはぼくが見た感想ですと、原発や過剰な土地開発に対する民衆や自然の怒り、なんだと思います。テーマの描き方は強烈だと思いますし、説得力があります。 なぜかといいますと、その過程で「死」と「殺人」がたっぷりと仮借なく描かれているからですね。本で読んだのですが、「死」や「殺人」、また「残虐性」というのは、強烈なメッセージ性があるのだといいます。これは古来から伝わっている日本人の自殺の観念と照らし合わせてみると、少し分かりやすいと思います。おかみに対する嘆願・陳情などで、村人が自分の命を犠牲にすることで伝達力を増したり、あるいは侍の仇討ちなどで、自身側の潔白性を証立てるために斬り合い後切腹したりなど、やや逆説的ではあるものの、立派な声明の発信方法だったわけです。 じゃあ殺人や残虐性はどうかというと、もちろん罪は逃れ得ないものの、効果的な発信手段だと思います。みぎわは「怪物」となることで強く観客に存在感を与えます。あれだけの長いシーンで、一体何人殺したんでしょう、そのさまをまざまざと見せつけられることで、みぎわは自身の存在の意義を発信したのだと思います。 みぎわは最終的に神秘的な存在となってしまいます。それが警察部隊をなぎ倒した嵐の意味だと思います。つまりみぎわは自然の象徴となり、「怪物=人魚」となって海に消えてしまうのです。 利権を狙って人命と人としての誇りを軽んじる勢力に対して、これ以上の戒めがあるでしょうか。「殺人」「虐殺」の効果はこの点抜群だと思います。 虐殺の後に、神秘的な「夢」のシーンを与えるのは心憎い演出ですよね。憎しみも残虐性も綺麗に潮に乗って流されてしまい、穏やかで切ない余韻が残る。 好みが分かれる作品ではあると思いますが、ぼくはすごい、良い作品であると思います。でもあの長いセックスシーン、殺害シーンを見るのは勇気がいりますね……(^_^;)

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