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薄化粧

薄化粧

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raz********

3.0

ネタバレ小さな仏壇と2つの石ころ

連続殺人鬼がなぜ犯行に及んだのか、その経緯を観客に見せ、一定の共感というか理解というか、彼の人間性を映し出した映画。 そのために、この映画は時系列をいじっている。映画の冒頭、犯人である主人公に先に罰(刑事による暴行)を与えて罪を清算させたうえで、観客には公平な視点から彼が犯罪者となった経緯を見てもらおうという意図が垣間見える。 この映画を鑑賞し終わったとき「金がからんでもつれてしまった男女関係」が一番印象に残るが、僕はあえて別の視点で考えてみたい。それは仏壇。 ・主人公は、映画の開始16分ごろ小さな仏壇を買い、  そこに海で拾った2つの石ころを入れ、 ・68分ごろ片方の石に「たかし」と息子の名前を鉛筆で書き、 ・201分ごろ仏壇を燃やし、たかしの方の石ころだけ腹巻の中にいれ、  もう一つの石ころは捨てた。 小さい仏壇を買ったのは死んで地獄に行きたくないという救済を求める彼の気持ちの表れで、だから自殺で死にきれなかったし、死刑になるのを恐れて脱獄した。ただし、後半になると、警察に見つからないように街中でこそこそ生きるのに疲れ、誰もいないところへ行って野垂れ死のうとした。仏壇を燃やしたのはそういう意味。死を受け入れた心境。 彼がなぜ死を受け入れたのかというと、同郷のちえと出会って一生分の思い出を作れたから。それにより彼にとって本当の妻はちえとなる。だから仏壇を燃やした時、殺した妻の方の石ころをひょいと捨てた。もっと早くちえと出会えていたら別の人生があったかもしれないという理屈だが、それが納得できるかはなかなか微妙なところ。 しかし死ぬ覚悟ができているなら、死刑を恐れず警察に自首しろといいたくなる。ところが、彼にも彼なりの言い分があって、自分が一方的に悪いわけじゃないと思っている。でも彼の言い分を聞いてくれる人がいるはずもないことも分かっていて、だから一方的な視点から判決を下されたくはなかったのだろう。彼は最後までそういう小さな自尊心を持っていて、それが薄化粧の正体だと思う。 この映画は冒頭からスピード感があってよいのだが、唐突に出てくる人名と、聞き取れない方言のラッシュで頭がパンクしそうになった。もう見るのやめようかなと思ったが最後まで見てよかった。文学をうまく映像化した作品に出合えた。ただ、主人公が連続殺人鬼というのもあって感情移入はできなかったのは残念。

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