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コミック雑誌なんかいらない! (1986)

監督
滝田洋二郎
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3.52 / 評価:118件

現実を突き破って訴えかけるジャーナル批判

  • yuki さん
  • 2017年11月24日 12時40分
  • 閲覧数 2708
  • 役立ち度 6
    • 総合評価
    • ★★★★★

アカデミー賞を受賞した『6歳の僕が大人になるまで』という映画に、とても感動した1シーンがあった。その映画は6歳の少年が青年になるまでのドラマを本当に12年掛けて撮影するという労作なのだが、その映画の中で、主人公の少年が父と一緒にメジャーリーグを観戦しに球場にゆく場面がある。その試合で,
ある打者がホームランを打つと、親子二人で観客席から立ち上がり、他の観客と一緒にオオワキするというワンショット。これがトンデモねぇと胸を打たれた。

何万人もいる観客を映してるので勿論それらはエキストラではない。実際にカメラマンと俳優が劇場に入り、観客と一緒に試合を観戦し、ホームランの瞬間を待ちつづけ、ついにそのシーンを撮影したのだ。何に感動したかというと、この映画はその演出によって、確実にその時代をフィルムに残したのだ。その時代その瞬間にある打者がホームランを打ったという史実・ドキュメントをカメラに収めたことで、映画のリアリティの強度がグッと増した。さらにそのドキュメントに対し、同じ画面に「そのホームランを喜ぶキャラクター」という虚構・フィクションを紛れ込ませることで、限りなくリアルとフィクションの境界線を曖昧にしたのである。とてもアヴァンギャルドで、画期的で、効果的な演出だと思った。

『コミック雑誌なんかいらない!』は内田裕也演じるキャスター・キナメリが1985年という時代に起こった様々な出来事を、キャスター目線で追いかけるという、言わば「1985年の再現ドラマ」だ。なぜ先にまったく関係のないアメリカ映画の話をしたかというと、それとまったく同じ演出をこの映画は30年も早く使っていたからである。
例えば松田聖子と神田正輝の結婚式に乱入するシーンでは、本当に乱入して警備員に張り倒され、内田裕也は鼻血を流す。松田聖子の結婚式が行われていたあの瞬間、本当に内田裕也は式場の横で鼻血を流していたのだ!
この映画の多くのシーンはあくまで再現ドラマ、フィクション、やらせであり、他愛のない映像ばかりなのだけれど、例えば神戸山口組突撃インタビューシーンなど、ときおり「ガチ」の映像を使うことで、どこまでがドキュメントで、どこからがフィクションなのかを意図的に曖昧にしている。

嘘をつくドキュメンタリー(モキュメンタリー)の代表格はデオタードの『食人族』だ。ジャングルに探索に行った映像作家たちの”遺品”として彼らの最期を収めたフィルムが発見されるというのは、後の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』などにも影響を与えた。食人族の冒頭で、やらせという設定で銃殺刑の映像が映し出される。しかしやらせと呼ばれたその映像は実は本物なのだ。
木を隠すなら森、嘘を本物らしく思わせるには嘘に真実を少し入ればいい。

『コミック雑誌なんかいらない!』は、そんな嘘と現実を行き来する虚実映画の系譜にある作品だ。そしてこの映画がそのジャンルの中でも特に優れているのは、その演出が単なる奇抜さにとどまらず、今作のジャーナリズム批判というテーマを効果的に浮かび上がらせてる点だ。

”豊田商事会長刺殺事件”が今作の締めのニュースだ。確かに日本ジャーナル史に残る衝撃的な事件だが、それだけに映像のインパクトに欠ける。別に再現ドラマでリメイクしなくても、観客はリアルタイムで”ホンモノ”の現場のニュースを目撃しているはずだからだ。いくら丁寧に正確にその瞬間を作り直した所で、それは贋作。本物が持つ熱気や迫力、リアリティには遠く及ばない。
ニュースが持つ面白さとはまさにその点だ。フィクションはドキュメントに勝てない、それを知っていたからこそゲリラ撮影を多用した映画である。どうしていまさらこんな蛇足みたいなシーンを撮ってしまったのか。なぜコレを締めに持ってこようと思ったのか。疑問だったが、ラストでこの再現ドラマの真意が明らかになる。

内田裕也演じるニュースキャスター・キナメリが、立ち尽くす記者の群れから抜け出し、格子窓を乗り越え、室内に侵入し、実行犯の凶行を命がけで止めようとする。
もちろんそんな人間はいなかった。そんな行動を起こした人間はいなかった。再現ドラマに徹していたこの映画が、どうして最後に嘘をついたのか。

口先だけの美辞麗句がならぶ不条理な現実世界への挑戦である。嘘つきが跋扈する現実世界への非難である。そのために、キナメリは”史実”という現実の壁を突き破る。フィクションが現実に侵入する。そして現実はもっとおかしいじゃないかと訴える。怒っているのだ、キナメリは。
「どうしてあの時だれも助けに行かなかったんだ!」と。


凶行は実行され、手負いのキナメリが部屋からでると待っていたのは記者からの質問攻めだった。
キナメリは答える『I can’t speak fuck’in japanese.』
その通りだ。この国のジャーナリストが喋る日本語は腐っていた。

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