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植村直己物語 (1986)

監督
佐藤純弥
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3.82 / 評価:50件

冒険にとり憑かれた男の一生。

  • 晴雨堂ミカエル さん
  • 2008年3月4日 13時07分
  • 閲覧数 1302
  • 役立ち度 30
    • 総合評価
    • ★★★★★

 たぶん、日本で最も有名な冒険家だろう。植村氏に憧れて登山や海外放浪の旅に出かけた若者は少なくない。そして、彼がアラスカ・マッキンレーで遭難した84年から映画化された86年は、ちょうど私が本格的にチャリンコ旅行をはじめた時期でもある。(余談1)

 物語は、植村が明大山岳部に入部してからマッキンレーで消息を絶つまでの20歳頃から40歳までを辿ったもので、文春で文庫本化されている彼の著作と、当時のニュース映像を参考に制作されている。
 この手の作品で気に入らないのは、多くが主人公の魅力ある人生をダイジェストで紹介しているだけに終わっているからだ。これも例外ではない。伝記物は1話40分1クール(13話)のドラマがちょうど良いような気がする。

 不完全燃焼の感はあるが、作中の大半を占める外国の雪山や雪原でのロケーションはかなりの重労働であり、スタッフや俳優たちの努力には敬意を抱く。また観る前は、植村直己役を容姿に隔たりのある西田敏行氏が担当することに不快感に近い違和感(余談2)を持ったが、それは杞憂だった。西田氏は不器用で格好悪くてドン臭い植村直己を巧く演じていた。音感が良いのか、英語やスペイン語の台詞も様になっていた。実際の植村氏も英語とスペイン語はかなり流暢に話せる。
 特に西田氏が妻公子役の倍賞千恵子氏に向かって大声でボヤく場面は説得力があった。山岳会の先輩から「ピエロ」と批判され、「ピエロなんかじゃない! 俺は独りでこの身体で感じたいんだ! 最新の機械と大掛かりなチームで行けば、登れない山なんて無いよ!」と大声を出す場面だが、まるで植村氏がそこにいるようだった。 

 映画のBGMはウィンダム・ヒルが担当。ギターとピアノだけのシンプルな音色が、物語に透明感を与えている。

(余談1)しかし当時の私は植村氏の冒険には批判的だった。それは作中で植村氏の先輩に扮した若林豪氏の台詞と同じ「ピエロと批難されても抗弁できない」である。個人的な冒険の為に世間から募金をとるやり方は今でも疑問に思っている。募金者やスポンサーのため常に「冒険家」を演じ続けることになるからだ。

 私が旅に憧れるようになったのは、ドキュメンタリー番組「知られざる世界」や「驚異の世界」の影響だった。
 
(余談2)単に容姿だけなら、植村担当の雑誌編集者に扮していた山本圭氏が実際の植村直己氏に近い。
 懸念していたのは、かつて「太平洋ひとりぼっち」で海洋冒険家堀江謙一氏に扮した石原裕次郎氏が、気のせいかスター俳優のカメラ目線をとっていたような感があって気に入らなかった。また作中で堀江氏がなぜ冒険の航海に踏み出したのか描写不足・演技不足だ。だから、西田敏行氏は果たして植村氏の冒険を理解しているのかどうかが不安になった。

 作中でエベレスト国際登頂隊の場面で「バギーノ」なるイタリア系の登山家が遭難する場面がある。実際はインド人で、なぜイタリア人に変えたのか解らない。政治的理由か?
 遭難したインド隊員は植村氏と親しかった。各国のエゴの突き合いで空中分解した遠征隊で、解団すると隊員たちはみな国へ帰っていったが、植村氏だけは遭難した隊員の遺族に挨拶しに行った。そういった植村氏の人柄がけっこう作中にも表現されていたのは嬉しい。
 マイケル=ビーン氏主演の「K2」で藤岡弘氏扮する日本人隊員の扱いを観ると、私は欧米人のアジア人蔑視を感じる。


 因みに一口に冒険といっても様々だが、以下の条件がある。

1 死の危険があること。単にスリルを味わうだけならホラー映画を観るのも冒険になる。
2 主体性があること。徴兵で戦地に行かされるのは死の危険はあるが主体性は無い。
3 社会的意義があること。最近の冒険旅行は「世界平和」「草の根親善」「エコロジー」といったテーマを宣伝する大義名分を設けている。
4 人類史上初であること。いま南極点到達しても、個人的な意味はあるがもはや人類史上の快挙ではない。

 植村直己氏の冒険は彼自身が認めているように、1と2をクリアした極めて個人的な冒険である。
 また、以上の条件をクリアするものが「冒険」であるなら、必ずしも登山や極地探検やヨットだけが冒険ではなく、チェ=ゲバラのキューバ革命も冒険になるだろう。それもかなり高度で難易度の高い冒険だ。「モーターサイクル・ダイアリー」を観れば解るように、ゲバラは単に義憤や社会主義の理想に目覚めたといった動機だけではなく、冒険の魔力にとり憑かれたといえる。

詳細評価

物語
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