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そろばんずく (1986)

監督
森田芳光
  • みたいムービー 5
  • みたログ 180

2.43 / 評価:46件

バブル突入直前を活写 作風もバブル映画

  • 真木森 さん
  • 2011年3月13日 12時49分
  • 閲覧数 1590
  • 役立ち度 11
    • 総合評価
    • ★★★★★

未曾有の大地震・津波が襲った3/11深夜、用心のため徹夜で起きていました。ちょうどその時WOWOWで本作が放映されていたので、遙か昔にビデオレンタルで見て以来四半世紀ぶりで鑑賞しました。うーん、でも腹が立って仕方なかったなあ。天災の圧倒的な驚異と非業の対極にある、バブリーで生活感が無くて俗悪な倫理観ばかりが目に付く内容。森田芳光監督はとんねるずにアドリブを一切させなかったそうですが、しかんしその割にギャグは薄ら寒いものばかりで冷え冷えしてきます。BGMもこの時代独特のピコポコ軽薄なシンセサイザー音楽でただただ安い。要所では『ビバリーヒルズ・コップ』の“アクセル・フォーリーのテーマ”をパクったとしか思えない噴飯もののインストも流れます。意味無く裸の女性が会社の屋上で修羅場を演じているところから映画は始まりますが、これを代表としてアバンギャルドを気取った訳の分からない編集つなぎが散見して、『家族ゲーム』の時は「新しい!」と感心しましたものですが、これではやりすぎ自己模倣です。特にせわしないカット割り(イッセー尾形登場シーンが典型)は全く無駄で『地下鉄のザジ』の出来の悪いオマージュか? でした。登場人物の使い方もちょっとなあ。デブり始めた頃の渡辺徹は全くもって目障り。名取裕子は無理しておバカなポーズをさせられたりしてイタい。チューリップの財津和夫の登場は『メインテーマ』からの引き継ぎなのでしょうが、ニヤニヤして全く場違いでアマチュア演技者のダメさを露呈しています。小林薫も『それから』の続投でしょうね。怪演ということで彼だけは評判高いですが、私に言わせれば鼻につくアクの強さだったなあ。とんねるずの二人は頑張っているのですが、スクリーン向けのキャラではないようですし、扱いも悪すぎます。
 こういうのに比べたら、やっぱり小林桂樹や三木のり平さんたちは存在感あってベテランだなあ、って感心するのですよ。いにしえの森繁社長シリーズのお二方を出して来るというのが森田監督の慧眼なのですが、あの頃苦労していた昭和一桁の二人が今や大手広告代理店の社長に上り詰め、しかし苦労知らずの新人類世代に追い落とされそうになるというのが切ない設定ですね。安田成美はスクリーン映えすることが本作で証明されて、“風の谷のナウシカ”をひどい歌唱力で唄っていたアイドル時代から脱皮して一流女優への道を歩む嚆矢となったと思います(“メインテーマ”をカラオケで歌うシーンは「おいおい、またあのひどい歌唱を暴露するのか」ってドキドキしましたが、音痴がばれる前に終息して事なきを得てました)。石立鉄夫もちょっとだけの出演ながら良かった。浅野ゆう子はW浅野ブーム到来前で何やらアダっぽい感じが良いですね。泉じゅんも豊原功補も「もしかしたら」って思ったらクレジットで名前を確認できて「おおー」。たった一人、「この若い社員ってどうも椎名桔平だと思うんだけど、クレジットにも名前がないなあ…」って疑問に思って調べたら、まだ芸名が岩城正剛名義だそうでレアです。それにしても伊藤克信は監督のデビュー作『の・ようなもの』からずっと出続け、最近では『椿三十郎』にも顔を出していて、よっぽどのお気に入りというか、切り離せない戦友みたいなものと言うか…。
 まあダメな部分は多いものの、だからといって切り捨ててはおけない映画ということでしょうか。学生時代にビデオで見た時分、ここから受け取った広告マン的な誠意のない仕事ぶりにいい知れない反感を覚えたのも確かで、ひょっとしたらあのままバブルの真っ直中で就職活動を順調に行っていたら今頃私は電通社員として闊歩していたかも知れませんね。それはそれで人生の勝者だったかも知れませんが、でも挫折を知らない最低の人格を宿してしまう羽目に陥ったかも。そしてあの頃の違和感は3/11の深夜でも全く変わらず、人間として最も大切なものは何なのかということを考える一夜すらも与えてくれたようです。随分酷評した本作ですが、バブル突入直前に作られたその時代性を真っ向から戯画的に刻み取り、しかもそれに対するシニカルな視点を保有しているという点で価値があります。そして格差社会が洒落にならないものとして実現してしまった今、「恋愛は自由にしたい」という若者の切なる叫びが心にしみます。それで私が今まで独身でいる理由が何となく分かった気もします。結婚は体の良いことを言っても所詮は体制の論理の中で強制されるものなのです。未だに私はその中で恋愛アナーキズムを多くのアラフォー同人とともに遂行し続けているのでしょう。
 作品同様私のレビューも取り留めが付かなくなってきました。まあお薦めできる出来の映画じゃないですね。ただ1つ、後進で「ともかく一流企業に入社したい」という志の低い人物にあったら、本作を見せてあげたいと思います。

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