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人間の約束

cyborg_she_loves

5.0

ネタバレ正義って何だろう

 私はこれ、「警察」と「法」というものがいかに愚劣な制度であるかを描いた作品として見ました。  その人が生きていることを望んでいる人が、当の本人を含めてこの世の中にただの1人もいない人。その人が死んだ方が、当の本人を含めてすべての人にとって幸福であるような人。そういう人が、確実に存在しうるんですね。  この映画ではそれは認知症老女のタツです。そして、彼女の家族のみんなが、一度は彼女を殺そうとしたか、あるいは死にかけているのを放置したことがあるとはいえ、積極的に彼女を「殺す」ことは、誰もしていません(ここが大事です)。彼女の死の真相はあくまで自殺です。しかし、家族は全員、自分が殺した、あるいは殺したも同然だ、と思って自責の念に苦しんでいる。  この映画が描いているのは、そういう状態ですね。そして私はここに、責められるべき人、罪を問われるべき人は、1人もいないと思います。タツは死んで本当に「よかった」のだと私は思うし、家族が彼女の死を望んだことの罪深さは、彼らの自責の念の痛切さによってもう十分につぐなわれていると思います。  ところがそこに、そういう心情の複雑さ、痛切さをまるで関知しない警察ってやつがしゃしゃり出てきて、タツを誰が殺したか、犯人をどんな罪状の容疑で逮捕できるか、ということだけを問題としてかぎまわる。  そして家族のみんなが、タツの死の責任は自分にあると思っているから、自分から警察につかまりに行く。  おいおい、ちょっと待ちなさいよ、と思ったのは私だけでしょうか。  すでに十分に自分の罪の意識に苦しんでいる彼らに、さらに法的な刑罰を科して、彼らを社会的に葬り去ることに、いったいどんな利益があるっていうんでしょうか。そんなことして、この世の中の誰が喜ぶっていうんでしょうか。  そういうことを問いかけている映画として、私はこれを見ました。  もちろん、その大前提として、「認知症」(痴呆)が周囲の人々にどんなに負担になるかということを痛切なリアリティで描くのに成功しているのは、言うまでもありません。これを見ていると本当に、こんなふうに老いることだけはしたくないな、そのために自分はどうしたらいいんだろう、と、つくづく考えさせられます。  これを撮影した当時の三國連太郎さんがまだ62歳だったと知って、びっくりしました。どう見たって80歳代以上にしか見えない。作品によって変幻自在にキャラクターになりきるこの人のすごさに、あらためて脱帽です。  彼に限らず、俳優・女優さんたちの演技の素晴らしさは、語る言葉がありません。もちろん、そういう演技を引き出した吉田監督の力量にも、感服です。  何度も見て、自分の人生と、それから今の社会というものについて、考え直すきっかけにしたい映画です。

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