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必殺4 恨みはらします

nan********

5.0

ネタバレこの世の悪を討つ劇場版の最高傑作

何という幸福であろうか。前作が”抑圧された男同士の戦い”なら今作は”無軌道な若者に鉄槌を下す正統派のアナーキズム”だ。ファンには常識的事柄として認知されているのだが、深作欣二監督はシリーズの始祖「必殺仕掛人」のメガホンをとり、「仁義なき戦い」で東映のエースとなった名匠である(「必殺仕置人」で中村主水のキャラクター造形にも加わっていたが、多忙となり先輩の工藤栄一監督を紹介した)。 前作のテンポの悪さを反省点に踏まえ、尚且つアダルトな世界観を継承するチームワーク。用意された脚本を監督自ら自由自在に改訂。矢継ぎ早に繰り出されるサスペンス、ミステリー、アクション。これはもう後期のTVシリーズでは不可能なエンターテインメントである。ここに漸く「本来の必殺シリーズ」が復活したのだ。 弱体化と評され打切りとなった「旋風編」メンバーも監督の御厚意でマイナーチェンジされ劇場版最強のメンバーとして生まれ変わる。神としか言えない。ただ事件を追い続ける主水をつけ回してるだけとしか思えない行動には些か不満は残るのだが。 家庭や奉行所では蔑ろにされうらぶれた貧乏長屋でおふくと飲んだくれる主人公の表の描写も「仕置人」「仕業人」へのオマージュ感があり心地良い。主水は落ちぶれるほど強くなれる。開幕早々刃傷沙汰騒動が起こりオカマの筆頭同心も汚物の中へ放り込まれる。いいぞもっとやれ。 また、渡世人を気取った剣客仕事人・わらべや文七親子のドラマも必殺ならではの情念として負けじと輝くのも心強い。倒錯した娘の描写に「仕掛人」サスペンス曲を被せるストップモーション演出も一々必殺ファンサービス精神に事欠かない。音楽と言えば「ブラウン館」ですっかり落ち目になった中村啓二郎追加BGMも今回は出色だ。ザ・時代劇感は同じ人が作ったとは思えない。 悪人描写も秀逸。各人の役割が単純明快でテンポの良さに拍車をかけている。長屋の住人はDQNな愚連隊に次々に惨殺され、その愚連隊もクライマックスを待たずに首が転がり落ちる。清々しい情無用ぶりだ。惨劇の舞台となったおけら長屋の廃墟で繰り広げられる暗殺者同士の死闘。全てが破綻をきたすことなく”最後の大仕事”へ有機的に繋がっていく…仕事人・中村主水の怒りが燃える。 監督は奥田との決戦はサシではなく仕事人全員が総力で挑む流れを想定していたそうだが、撮影期間超過とメンバーのスケジュール問題をクリア出来ず意外とシュールな決着となった(最後に集まって死体を見るシーンは主水以外JACの代役、ほっかむりや編み笠もこうした状況を予め想定したもの)。尤も主水の危機をお玉の拳銃が救う流れ自体に変更はなくもしも八丁堀がこれも計算の内で奥田一味に喧嘩を売ったのなら天晴な大仕事だ。こうして”必殺版・仁義なき戦い”は終幕を迎える。 自らの矜持を語り、人知れず死んでいった文七に哀悼を込めて報酬代わりの独楽を誰もいなくなった住小屋跡に置いて黄昏る主水に被るエンディング曲は「風雲竜虎編」挿入歌という潔さ(既に続編の企画だけはあり、その兼合いだったと思われる)。今後も一人の仕事人として生きていくであろう男の哀愁を漂わせる名シーンとなった。素晴らしい。 某サブカル本で”これが必殺最後の華”と評されていたが全くの同感である。本作の様に反骨精神に溢れた庶民的な時代劇が復活する事は恐らく今後も無いのだろうと思うと、情けない。

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