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死んでもいい (1992)

監督
石井隆
  • みたいムービー 17
  • みたログ 177

3.96 / 評価:46件

土砂降りの日に、運命の歯車は回る

この映画では、何かが起こるのは、決まって土砂降りの日。
キャスティングが抜群によろしく、また演出も凝っており、
愚かで恐ろしい話なのに不思議な情感に包まれた、忘れ難い映画である。
何といっても永瀬正敏が最高。

冒頭の描き出しが非常にカッコよろしい。
風来坊の信(まこと)が流れてくるのは
雨の日で、中央線の地方都市、大月。
ホームに降り立った彼は、
空き缶を投げて行く先を決める気ままさ。
再び激しく降り出した雨に躊躇する信。
約束でもあるのか、駅から飛び出してゆこうとする人妻・名美に
信は振り返りざまにボストンバックをひどくぶつけてしまう。
口にはくわえたままのアンパンが。

こう書くとまるでアニメだ。
でも、引き込まれるのは役者がいいから。

丁寧なスローモーションで、この出会いは描かれる。
信はその時、名美の放つフェロモンに一瞬にして捕らえられてしまう。
フレアスカートに白いペタンこパンプスが
なんともダサい、どこにでもいそうな田舎の主婦の名美。
そして信の視線となったカメラは
無防備な名美の表情にくぎ付け!
目じりの小皺と幼げな半開きの口もとのアンバランス。
う~ん、これに欲情するとはなかなか…

やがてタイトルが…斜体で「死んでも いい」と。
信はとっさに彼女に謝ることばも出ない。思わずあとをつけて行ってしまう。

文字で書くとこんなクサい演出なのに、
映像はカッコイイのである。
この掴みで、
絶対この映画は面白いと確信させてしまうだけの魅力がある。
大竹しのぶは好きじゃないけど、
この男女の釣り合わなさがこの映画の肝。
彼は、なんと名美とその夫が営む不動産屋に、
従業員におさまってしまう。

まじめに働いてはいるものの、
妄想はふくらみ、
再び土砂降りの雨の日に、彼の募る欲望はついに爆発。
名美はモデルハウスで待ち伏せていた信に
暴力的に犯されてしまう。
だが、思いを遂げたはずの彼の方が
自分のしたことの罪に我に返ったのか、
泣きだしてしまうのを見ると、
一瞬にして心理的な立場を優位に逆転させてしまうのが読み取れる。
(裸で泣いてる永瀬かわいい!)
自分から「場所を変えよう」と誘う名美。
…踏み越えちゃったんだから1回も2回も同じよ、と開き直ってか、
どうせならちゃんと楽しむ方を選ぶところが意地汚くてリアル。

永瀬正敏のお尻が素晴らしい…脱いでくれてありがとうございますと
三つ指をついてお礼を言いたいくらいである。
役柄とはいえ、大竹しのぶがうらやましい(=_=)。

室田演ずる夫はやはり名美に惚れており、
ふたりの関係に気付いて信を追い出すが、
この寝盗られ亭主は名美のことを許してしまうのだ。
惚れてるほうが負け。
許された女は懲りることができない。

名美は自分の欲には正直でしたたかである。
クネクネして、はかなげでありながら、旦那と、若い愛人の
どちらも離そうとしない。(気持ちはわかる)
一度は名美を忘れようと決心した信の気持ちを、
無責任にも呼び戻してしまう。
いいとこ喰いの生活を捨てるつもりはない。
「私、あなたがいないと夫のこともきちんと愛せない気がする」
理屈になってない。(気持ちはわかる)
名美の真意は、「用途が違うのでどっちもほしいの」である。
きちんと(?)言えば、
たぶん予想より多くの男が受け入れる言い分だと思う(女も)
だが、結局、名美を独占したい信は短絡に
「一人の女から離れられない男が二人いるなら、
一人が消えればいいんだろ?」と…

そしてまた、土砂降りの雨の日がやってくる。

名美と信の思惑がずれ始めるところで
シャイニングもびっくりの
どっきりシーンがある。かなり心臓に悪いが
私はあそこの演出が大好きだ。信の純情が狂気に変わって
もはや歯止めが効かなくなることを知らせるシーン。

あれがこの映画を更に忘れられなくしている。

そして最後はノンストップの修羅場である。
さすがに寝盗られ亭主に同情する。
展開がわかっていてもすごすぎる描写である。

ラスト、
名美は「ほとぼりが冷めたらこれからはずっと一緒よ」
とつぶやくが…
頭の中では、信のずさんな偽装強殺計画がばれた時に
自分だけ助かる算段をしていたのではないかな。

信は御褒美をねだる忠犬のように瞳をキラキラ輝かせて
名美にかしづき、
手に入れた(たぶん)束の間の幸福に、
底抜けに無邪気に笑って見せる。

劇中に昭和のムード歌謡が挿入される。
これも雨をテーマにした男女の歌である。
「黄昏のビギン」だったかな? 監督がよほど好きなのだろうか、
挿入には違和感があるが、
阿片のような耽美的な歌声で、これはこれでまたすばらしい。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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