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二十才の微熱 A TOUCH OF FEVER

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4.0

ゲイ映画と言うより青春映画の良作として

 上野の「世界傑作劇場」でかかるゲイムービーは以前からあるけれど、商業邦画としてゲイを正面から描いた青春映画は初めてだったのではないだろうか。 橋口亮輔監督はたしか30歳そこそこでこの映画を撮り、その評価で有名になった。この後「渚のシンドバッド 」「ハッシュ! 」でも商業邦画としてゲイを描く。  倦厭せずに、レンタルショップで見かけたら、まずは一見して欲しい。男女問わず、あなたが若い方ならば、鑑賞前と鑑賞後では、ちょっとだけだが、世界が違ってみえると思う。そして、この映画が興味本位にゲイを描いた映画ではなく、良質な青春映画であることを了解していたただけると思う。多くの賞を獲得した映画だ。  主人公は、はっきり自分がゲイであると気がついてはいない。体を売っるバイトをしているのも、むしろ、てっとり早く金を稼ぎたかったのかもしれないし、自分探しをしたかったのかもしれない。彼は、この時期、バイセクシャルで、きっと30過ぎて、普通に結婚したのではないだろうか。だから「微熱」なのだろうと思う。  むしろゲイとかノンケとかいう前に、主人公は若い時に特有の、あの孤独感を持ち、そして孤立している。そんな自分をそれほど苦と感じているのでもなく、結構、それなりにハードボイルドに生きていると思っている。  そんな普通の青年として主人公「樹」は描かれる。彼は、等身大の青春群像のひとりであって、特別な人ではない。もう15年ほども昔の映画だが、今、観ても「樹」は、私たちのそばにいそうなリアリティがある。  彼がはじめて「人間」という存在を意識するのは、はからずも彼が何気に立ち入ったゲイの世界。ややこしく、いざこざだらけの人。この滅法面倒な人の関係性に、青春時代の一時、「樹」は奔騰されることになるのだ。「微熱」を出しながら、人間関係のややこししさに、少々病気になる。それは誰もが経験してきた青春の1コマだろう。  人間ドラマの描き方。この後の作品にも通じるが、橋口亮輔、いたく繊細なのだ。また、かの世界の風俗描写も克明に出てくるが、必要以上に熱くもなく、また醒めてもおらず、卑下も過剰な自尊心も露にせず淡々と描かれていく。脇に配置された登場人物も、よく作りこんであると思う。    ゲイという世界をそれだけにとじこめず、普遍的なテーマに変換し、青春群像劇に仕立てたことが成功した理由なんだろうと思う。  話は別だが高橋伴明監督がこの映画の後「愛の新世界」を撮ってたいへん評価された。「愛の新世界」は昼は女優の卵、夜はバイトの若いSM嬢を鈴木砂羽が好演する。両作ともいわゆる「風俗」を描きながら、興味本位に走らず、結構サバサバしたタッチが似ていて私は好きな映画だ。  映画評論家で私の敬愛する淀川長治さんは、本作の橋口亮輔と北野武をことあるたびにプッシュしておられた。元気のない邦画に新風を起こせる監督として、両名に期待していたのだろう。  余談だが、淀川さんはゲイ映画には特段に詳しかった。「太陽がいっぱい」のトムとフィリップはゲイ関係にある、などとディティルを分析しながら書いておられたのを思い出す。  私ごとだが、若いころ、同僚がカミングアウトし、その場に立ち会っていた。でも、この映画を観ていたおかげで、茶化すことなく、彼の切ない思いをなんとなくだが理解できたように記憶している。

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