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デッドエンド (1937)

DEAD END

監督
ウィリアム・ワイラー
  • みたいムービー 2
  • みたログ 13

3.80 / 評価:7件

死んだら、終わり

  • すかあふえいす さん
  • 2014年9月7日 7時24分
  • 閲覧数 351
  • 役立ち度 4
    • 総合評価
    • ★★★★★

本作はよくある暗黒街ものとはかなり違う性質を持っているだろうか。
かといって、小津安二郎の「非常線の女」のような人情話でもない。
劇中で闇に堕ちて行く男を描く視線は、虫を踏み潰すように冷徹なものを感じさせる。
まずファースト・シーンが印象的だ。
街の景観を斜め上から捉え、一見澄み切った街から徐々に質素な街の一角へと画面が映る。
街の外から流れる美しい川をたどり、やがて川の上にある小さな貧民街でボロを来て生活する子供たちの集団に出くわす。
貧しさの余り心が荒もうとする子供たち。
川の美しさに目を付けた富裕層の家を、憧れと恨めしさの混じった眼差しで睨みつける。
坊ちゃんと貧民街の子供たちの睨み合いが印象的。貧しさが憎しみに変わる一歩手前だ。
そんな彼らの成れの果てが、しばらくしてスッーと登場するギャングたちなのだろう。
貧困から抜け出すために犯罪の世界に足を踏み入れてしまったマーティン(ハンフリー・ボガート)。
それは駆け出しの頃のボガートに何処か重なる。出世するために片っ端からギャング、ギャング、ギャングの役を演じて下積みを続ける。
ボガートは一体何度ジェームズ・キャグニーに殺されているのだろう。それを思うとちょっと泣ける(色んな意味で)。
子供たちはそんなギャングと仲良く口を聞き、ゆくゆくは自分たちも「ギャングみたいにカッコ良くなって出世するんだ」と夢を思い描く。
学校に行く金もない、勉強できないから教養もない。そんな彼らにとって、己の腕っ節次第で出世できるギャングの世界は何もない子供たちには夥しい輝きを秘めた魅力的な“夢”なのだ。
それを引き止めるのが、子供たちのマドンナ的存在ドリーナ(シルヴィア・シドニー)。
歳の離れた弟を食わせるため、懸命に生きる彼女の健気さ、貧しいが故の無力さは薄暗い貧民街を照らす灯りなのだ。
子供たちがギャングにならないか毎日心配そうな顔で見つめる。ただ、止めようにも止められない。彼女も心の何処かで「その方があの子達の生きるためになるのかしら」と葛藤を続ける。
彼女が想いを寄せるデイヴ(ジョエル・マクリー)もまた、貧困から抜け出すべく努力して建築家になるが、挫折して再び街に戻ってきてしまった。
デイヴは富裕層の豪邸に住むケイ(ウェンディ・バリー)に惹かれる。デイヴはまだ大物になりたいという夢を諦めきれないのだ。
一方、一見出世したかのように見えるマーティンも、ある意味デイヴと似た境遇だ。
警察から逃れるために顔すら変え、故郷には一目見て彼だと解る人間はもういない(例外を除いて)。
疲れた心に癒しを求めて来るが、母親にも勘当され、かつて愛した恋人も情婦に成り下がっていた。彼女にとっても情婦になるしか生きるすべが残されていなかった…マーティンは何も言う事が出来ない。
かすかに残っていた良心は消え去る。
だが、顔は変わっても結局心は変わらない。
デイヴは殺し屋となったマーティンに昔の面影を見出す。
ストーリーは終始ドラマだけで終わるかと思いきや、終盤の銃撃戦には度肝を抜かれる。
グレッグ・トーランドの神がかったキャメラの素晴らしき事。
去り際に絶えず母親の窓を見つめ続けるデイヴの表情。正義感を気取っていた彼も、浮気をし、気付けば親友を死に追いやっていた。そんな今の自分への絶望の混じった表情。
デイヴに興味本位で近づいていたケイも、貧民街の不衛生な環境を目の当たりにしてあっという間に離れていく。デイヴは彼女を軽蔑するよりも、己の貧しさを申しわけなさそうに恥じる。そういう男なのよ、デイヴは。
相手が悪い事しても「いや、俺がもっとしっかりしていれば」と真っ先に自分の非を考えてしまうのさ。そいう奴だから、ドリーナはデイヴに惹かれたと思うのよ。
それに対局を成すようなマーティン。すべてに絶望して「所詮俺の人生なんてこんなものよ」と哀しい表情が胸に迫る。
地味にワード・ボンドも出てんだぜ。
また、シルヴィア・シドニーとクレア・トレヴァーの月と太陽のような正反対の描写と演技も素晴らしい。特にシルヴィア・シドニーの美しさは、この作品を象徴するような光と闇を背負った存在だ。
マーティンはギャングの英雄としてではなく、実に呆気なく虚しい死に様。顔の変わった彼の死体を見て、かつて彼が貧民街出身の子供だった事など誰も知る由がない。事情を知る母親だけが彼のために声を挙げ涙を流す。
警官たちは「馬鹿な奴だ。だから死ぬんだ」と、彼が何故このような最期を迎えたか考えもしない。ただ貧しというだけで人を蔑んでしまう。
いや、警官たちも市民を守るために、犯罪者に同情する心の余裕が無くなっているのだろう。「同情すれば、こっちが殺される」と。社会の厳しさが彼らの心からゆとりをかき消しているのだろう。

詳細評価

物語
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演出
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