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失楽園 (1997)

監督
森田芳光
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  • みたログ 1,528

3.02 / 評価:465件

単なる「低俗な不倫映画」ではない

  • cbk******** さん
  • 2021年7月17日 16時15分
  • 閲覧数 456
  • 役立ち度 4
    • 総合評価
    • ★★★★★

なぜ、社会的制約に縛られずに互いに愛し合う2人が、新たな人生を歩むことを選ばなかったのか?

私は1つの解釈として、「不倫=社会的死」という当時の価値観が暗喩されているのではないかと思いました。

2人の逢瀬が明るみになり、男は同僚からは冷ややかな目で見られ会社を左遷され、女は母親からは「はしたない!」と言い投げられ、勘当されます。そして、その後2人は、心中をはかります。
この2人の決断は、「不倫とは世間から絶対に許されない非道時的な行為であり、それは社会的死を表す」というような価値観のもと下されたのだと思います。
つまり、「このまま世間から白い目で見られながら生きるくらいなら、最高潮に幸せの今、死んだ方が幸せだ」ということです。

進歩的な価値観で考えたら、「2人で生きて幸せになる努力をすればいいのに!」とツッコミを入れたくなりますが、当時はそのようには容易に考えさせない社会的抑圧というものがあったのではないでしょうか。

場所や時代が変わればそのような価値観なんてそれぞれなのに…
現代では、「ポリアモリー」や「事実婚」というような従来の結婚観や恋愛観に縛られないライフスタイルが、完全にではないにしても、認められつつあります…

話は少し脱線しますが、現在でもよく見られる、不倫をした芸能人に対する激しいバッシングには一種の異常さも感じられます。名前はあげませんが、今までにそのような報道が原因で「干された」人って大勢いますよね。



また、彼らの選択には、2人の互いへの愛情が移ろいでしまうことへの恐怖・不安もあると思います。お互いに変わってしまう前に、今の最高潮の気持ちを、最もいい状態で凍結してしまいたい。「愛の永久凍結」への願望とでも言えそうなエゴティスティック感情は、ラストシーンで2人が雪に埋もれていくという形で情景描写されています。
刹那主義に見られる美を擁護する人はこのエンディングを「趣がない」と言うかもしれません。桜の花は散ると言う前提において美しさが増すと言う側面もあります。ただ個人的には、その諸行無常という自然の摂理に(加えて社会的制約に)抗う、このような死に方は何か魅力的な美学を感じます。



ただ、この2人の恋愛を「常識に縛られないからこその純愛の究極」という美談で終わらせてもいけない気がします。

女性には同情の余地があります。旦那は積極的にコミュニケーションを図ろうとせずに家にいるときはいつも自分の部屋(世界)に篭りっきりです。そして吐き気を感じたのが、妻を無理やり押し倒して行為にいたろうとしたシーンです。あんなのはレイプですし、妻を「自分でコントロールできる所有物」として考えているのでしょう(コミュニケーションの仕方を学んでこなかったという点で可哀としか言えないですが)。なので、ある意味で、女性が外に安らぎを求めるのは必然でしょう。

男性に対しては、問題ありです。ここからは個人的なバイアスがかかっていることも承知なのですが。
まず、奥さんが「別れましょう。その方が良いでしょう。」と話を切り出した際に(それがどれだけ勇気のいることで、同時に切ないことだったか…)、返答として、「そんなこと急に言われても、困る」と切り返したシーンです。なんて自分勝手なのだ。奥さんがお互いの幸せのために提案した、その愛情ある行為に対して、自己中心的な返答(まあ自分のエゴを守るための反射だったのでしょうが)。ここで、私は、この男は夫婦間のコミュニケーション・対話に価値を置かない人間なのだと思ってしまいました。

私はこの話を美談としてまとめてしまうと、残された奥さんが報われなさすぎて、なんかモヤモヤしてしまいます(旦那は自業自得)。しかも、納得できるほどの説明も謝罪もないまま、この男は、止める娘を振り切って家を出ていきます。
もともと恋愛は利己的なものですが、この男性を見ていると「もっと建設的に対応できなかったのかなあ」と幼稚さを感じてしまいます。


とまあ、つらつらとまとまりのない感想文を書いてしまったのですが。
まとめとして、この映画を「不倫を美化する低俗な映画」というふうに評価するのはもったいないと思います。そもそも人間は1人の人間を愛するようにプログラミングされている機械でもないし、なんでも合理的・理性的に考える動物ではありません。私たちの考えは、もっと両面性や矛盾を孕んでいます。
別に不倫を擁護するつもりはないのですが、何が正しいとか悪いとかっていうのはそもそも客観的合意を得られるものではないと思います。
何か矛盾を抱え、苦しむ。それはとても人間的な現象ではないでしょうか。

そして、彼らは最終的に「死」を選んだ。このエンディングが何を示唆しているのかということに対して、それぞれが一考する価値はあるのではないでしょうか。

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