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デルス・ウザーラ (1975)

DERSU UZALA

監督
黒澤明
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3.90 / 評価:170件

デルスは永遠の大地に旅立ったのだ

黒澤明監督の映画レビューを書くのは「羅生門」「蜘蛛巣城」に続いて3作目だ。今回取り上げる『デルス・ウザーラ』は1975年のソ連映画。この年のアカデミー外国語映画賞を受賞している。製作国であるソ連はすでに崩壊してしまったが、永遠の輝きを放ち続ける不朽の名作だ。
1910年、新しい村が建設されているシベリアの森林に、アルセーニエフ(ユーリー・サローミン)という男がやって来る。3年前に埋葬した親友の墓を探しに来たのだが、目印となる松の巨木は伐採されており、墓は見つからなかった。親友の名はデルス・ウザーラ(マクシム・ムンズク)。物語は1902年にさかのぼり、二人の出逢いと友情、そして別れが描かれていく。

映画を観ていて、ふいに遠い記憶が呼び覚まされることがある。僕が小さい頃、子供向けの「山男デルスウ」という物語を読んだのを思い出した。たしか購読していた月刊誌「学研の学習」に載っていたと思う。
鮮明に思い出したのが、主人公とデルスウが荒野で進退窮まる場面。映画では前半(第1部)のクライマックスとなる。帰り道が分からなくなって日没が近くなり、このままでは凍死してしまうと焦る主人公に、デルスウが真剣な表情で「だんな、よく聞くだ。よく聞くだぞ」と告げる。
「アシを刈るだ。グズグズしちゃなんねえ」。理由も分からずアシを刈り始めた主人公に、デルスウが「やれえ、やれえ。早くだあ!」と大声で叱咤する。慣れない重労働と寒さで疲労困憊する主人公。気を失いかけたところで、高く積み上げたアシの下に潜り込む。そこはベッドの中のような温かい空間になっていた。自然を知り尽くしたデルスウの知恵で命を救われたのだ。

僕が思い出したのは以上の場面である。セリフまで覚えていたから、よほどのインパクトを受けたのだろう。映画で分かったのが、主人公が探検家でシベリアの地図作りを目的としていること。二人が遭難したのが凍結したハンカ湖畔であったこと。簡易テント作りの際は、主人公が持っていた三脚台を支柱にして、上に銃やロープをかぶせてアシの飛散を防いだこと、などである。
この場面の迫力は圧倒的だ。山男デルスは残った足跡を見て、人数や人種などを言い当てるホームズ並の観察力を持っている。しかし凍った大地に足跡はつかず、地吹雪はわずかな痕跡まで消し去ってしまう。凍った川は氷が割れる危険があるから渡れない。次第に強くなる風の中で、太陽が弱い光を放ちながら西に傾いていく。この場面を撮影するために、一体どれほどの労力をかけたのだろうか?

『デルス・ウザーラ』の物語は、共産主義の時代においても愛され続けた、ロシアの国民的な文学だったようだ。ちなみに僕が脳内で想像していた山男デルスウは熊のような大男だったが、映画のデルスはアジア系の小柄な男だった。黒澤映画の常連だった志村喬をイメージしたという。
映画は前編と後編の2部に分かれ、第1部は1902年(八甲田山の大量遭難と同じ年だ)、アルセーニエフとデルスの出逢いから別れまでを描く。大自然の厳しさと冒険のロマンを味わえる章だ。かけがえのない親友となった二人が線路で別れるシーン、デルスの「カピターン!(隊長)」という叫び声が忘れられない。

そして第2部は1907年、二人の再会からデルスの死までを描く。ふたたび輝かしい冒険の日々が戻って来るが、クロテンを撃って得た現金を悪い商人に持ち逃げされたり、凶暴な匪賊が跋扈したりと、次第に暗い影が周囲を覆い始める。
後半のクライマックスは虎と対決するシーンになるだろう。向かってきた虎をやむなく撃ってしまい(手負いの虎は死ぬまで走るというセリフが悲しい)、虎の霊に復讐されるという恐れに取りつかれ、次第に気難しく変わっていくデルス。間もなくあれほど得意だった射撃の腕が衰えてしまう・・・。

思い出したのはもう一つ。小さい頃に子供向けの「ロシア文学全集」みたいな本を読んだ記憶があり、その中にも「山男デルスウ」が収められていた。おぼろげに覚えているのが、デルスウが身体の衰えのため森で生きていけなくなり、主人公と一緒に町で暮らし始める。主人公が水道料金を払っていると、デルスウが「なんで水に金を払うのか?」と怒る場面があった。
町の暮らしになじめなくなったデルスウは森に戻っていくが、何者かに殺されてしまう。デルスウを最後に目撃した人の話によると、森に帰っていく彼はとても楽しそうに見えたと・・・。映画を観て、小さい頃に読んだおぼろげな記憶が補完されていった。
アルセーニエフは視力の衰えたデルスのために、別れ際に最新式の照準器付きの銃をプレゼントする。「これなら目が悪くても外す心配はない」と。しかしそれが仇になってしまう。その銃を狙った物盗りに殺されてしまったのだ。デルスの墓に雪が降りしきるラストシーンは、黒澤監督の次作「影武者」で旗指物が水底に沈むラストを思い出した。

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