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透明人間

透明人間

THE INVISIBLE MAN

70

cyborg_she_loves

5.0

今でも十分通用する怪物映画

これがどれほどの名作かは、他のレビュアーさんたちも、世にあふれる映画本も、書きつくしているとおり。  なので、同じことは書きません。  ここでは私が見ていて感じたことを、いくつか。  これはアメリカ映画ですが、舞台はウェルズの原作に沿って、イングランドになっています。とんがったヘルメットをかぶった警官とかも、そういう土地柄ですよね。  キャストも、グリフィン(透明人間)役のクロード・レインズ、クランリー博士役のヘンリー・トラヴァースは、いずれも英国人です。酒場・兼・宿屋の経営者夫妻を演ずるフォレスター・ハーヴェイとウナ・オコナーは、いずれもアイルランド人。  イギリス英語とアメリカ英語は微妙に発音が違いますから、こういうキャスティングによって英国らしさをうまく出してますね。とりわけ宿屋のオカミのウナ・オコナーさんが下町英語でまくしたてるところはいい味出してます。  ところが。  この透明人間のグリフィンは、英語は英語なんですがドイツ式の巻き舌の発音で、世界征服の野望を滔々と語ります。これを聴いてヒトラーの演説を思い出す人は少なくないでしょう。実際、1933年といえば1月にヒトラー内閣が登場したまさにその年でした。  この映画には多分、ヒトラーの不気味な大躍進に対する風刺が込められていますね。  銃器や爆薬といった目に見える暴力によってではなく、演説という目に見えないものの中に潜む魔力によって世界支配を企てるヒトラーの姿は、透明であることを利用して世界支配を企てるマッドサイエンティストの姿と、見事に重なります。  この映画のグリフィンは、恋人のフローラ(グロリア・スチュアートさん)への愛情を見せる一瞬以外は、完全なるマッドサイエンティストです。狂人です。怪物です。  見えない体を見せて人々を驚かしたり、見えないことを利用して暴行や殺人を繰り返して大笑いしている様子は、とても人間には見えません。  そういう意味で、これは「フランケンシュタイン」とか「ドラキュラ」とかと並ぶ、怪物映画です。1954年の日本の「透明人間」のように、透明人間となった人間の苦悩や悲哀を描くという視点は、ここにはありません。  だから駄目だ、と言ってるんじゃないですよ。  私は怪獣映画・怪物映画・妖怪映画のたぐいは大好きです。  この映画も、1世紀近くたった今でも十分に楽しめる、上質の怪物映画に仕上がっていると思います。  特撮も、見事です。54年の日本映画は画面を暗くすることでどうにか特撮の稚拙さを隠していましたが、このアメリカ映画の方は、鮮明な画像でもちゃんと透明人間に見える映像を作っています。今見ても貧弱さは感じません。  ただ、パジャマの上着だけを着てこっちむいた時に、パジャマの後ろ襟の部分まで消えてしまっていたのはちょっと笑っちゃいましたけど(襟の内側がこっちに見えてないといけないはずなのに)。

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