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都会の牙

都会の牙

D.O.A.

83

bakeneko

5.0

ネタバレ俺はもう死んでいる

出張先で遅行性の致死性物質を飲まされた主人公が、タイムリミットまでに犯人と動機を独力で突き止めるべく奔走する―焦燥感漲るタイムリミットハードボイルドの佳作であります。 原題:D.O.A(=DEAD ON ARRIVAL)とは、警察業界用語で、「病院に到着したときに既に死んでいた」の意味で、本来は死人である本人がうろつき回って捜査する異色な設定と、タイムリミット(=死)に向かって徐々に悪くなっていく体調を抱えてのハードボイルドな調査が、異常な焦燥感と腕力任せでない推理に依った作劇に結実しています。 83分という上映時間の中に、新規な設定と目まぐるしい展開を詰め込んだ本作は、ちょっと推理の部分が駆け足になっています。前半の主人公が罠に嵌められるまではスローモーだったお話が異常に加速して怒涛の展開となる中盤以降は、正直言って“何がどうなっているのか?誰が誰やら?”-付いていくのに観客が懸命になる作品で、主人公と恋人との恋や冒頭の回想形式など冗長な部分を上手く整理して、推理捜査部分をじっくり説明して欲しかった映画となっています。 それでも、死が迫ってくる―設定の緊迫感は圧倒的で、後年の時限爆弾や毒物効力発揮や病害蔓延などの“タイムリミット活劇”の嚆矢となった佳作であります。 ちょっと後半の怒涛の展開が忙しい映画ですが、ディミトリィ・ティオムキンの音楽も躍動的な緊迫感を盛り上げている古典的名作で、より現代的にアレンジした親切なリメイク版「D.O.A.」(1988年)もあります(こちらはかなり甘口)。 ねたばれ? 最期のテロップに“この物質の害は医学的に在りうる”と出て来て脅かしますが、確かにイリジウム:Irには2種の安定同位体と多くの放射性同位体が存在します(宝石装飾に使われているのは安定体の方ですからご安心を、でも自然発光はしないと思う)。 おまけ(同じフィルムノワールってことで、レビュー項目にない作品を...) 「恐怖のまわり道」(Detour, 1945) “史上最高のノワール映画”等と持ち上げている論説もある伝説の作品ですが、1945年製作という部分を差し引いても中途半端なスリラーで、“幻の名作に良作なし”の格言を再確認する出来となっています。 ニューヨークからロサンゼルスの恋人に会うためにヒッチハイクで旅をしていたピアノ奏者が、偶然乗り合わせた車の主が急死したことから堕ちていった犯罪の波状泥沼を回想で描く67分程の作品で、実際のスリラー部分は60分位となっています。 突発的な事故によって“それまで何も気にかけていなかったことが、自身の容疑を濃くする行為であった”-という仕掛けと主人公の焦り→開き直りから→思いがけない人物の乱入→更なる非常事態への発展までの話運びは光るものがありますが、“これから大きな展開になる”というところで唐突に落ちが付いてしまっています。 “きっともっと大きなクライマックスが用意してあったんだけれど、予算不足で途中で中断&それまで撮ったフィルムで映画を纏めければいけなかったに違いない!”と思わせる尻切れトンボの作品となってしまっていて、“これが最高の作品なの?”と首を傾げてしまいます。 主演俳優やヒロインはいかにもB級レベルなのですが、中盤から闖入して来るアン・サヴェージが悪夢に出てきそうな“やばい女”を見事に体現しています。また、音楽がなかなか凝っていて、主人公の恋人が歌うポピュラーソングや主人公が弾くクラッシックのジャズ化ピアノ曲はセンスが良く、特にショパンのノクターンのジャズ風編曲が全編に流れて聴かせてくれます。 予備知識なしにB級スリラーと思って観たら、ちょっと面白い展開と唐突な終末に面食らう映画ですが、ベストノワールうんぬんの作品とはとても言えないー伝説が独り歩きしている映画ーですので、機会があったら軽い気持ちで覗いてみるのが一興の作品かと思います。 ねたばれ? 長い電話線!

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