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御法度 (1999)

監督
大島渚
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3.34 / 評価:305件

エロスとタナトス 『愛のコリーダ』変奏曲

  • 真木森 さん
  • 2013年1月27日 23時58分
  • 閲覧数 2002
  • 役立ち度 31
    • 総合評価
    • ★★★★★

この作品が大島渚監督の遺作となってしまった…。古今東西、映画界の巨匠と呼ばれる人達が遺作としてこれ程まで至高の出来映えの作品を残し得た例は小津安二郎の『秋刀魚の味』かキャロル・リードの『フォロー・ミー』くらいしか見当たりません。しかしそれでも大島監督自体は次の作品を撮る気満々だったろうし、それがまた強力な「遺作」になったであろうことは想像を待ちません。本当に今回の逝去は痛恨の極みです。
 そして本作は大島渚という映像作家の特質を分かりやすく示す一品となっています。原作である司馬遼太郎『新選組血風緑』「前髪の惣三郎」「三条磧乱刃」を読めば分かるのですが、そこにある台詞、心情説明を監督はほとんど脚色していない。愚直なまでにそのまま用いています(ただし「三条磧乱刃」は惣三郎でなく国枝大二郎という別人の物語ですが)。これは「司馬遼太郎の原作に忠実に」という不文律を徹底したのかもしれませんが、そんな押しつけを大島監督が守る訳などなく、むしろ監督自身の几帳面さ故の作家的資質なのではないかと思うのです。監督は言葉は言葉としてそのまま用い、そこに過剰なまでの意味合いを見つけていくタイプの作家だったのでは。そしてその言葉を映像化する際に、大島さんは完全な構図を持っていたことも分かるます。松竹の大庭秀雄の元で助監督をやって仕込まれた大船調の手堅い画面作りは、それが血肉化した後は秀才の大島監督にとっては雑作もなく再現できるものだったのかもしれない。本作の剣術の所作、本願寺の美しさ、夜の京都の街並みに見事に映えるライティング等々に見事な腕前を感じるのです。そして崔洋一やトミーズ雅、デビューしたての松田龍平のような素人同然の演技者からあれだけの存在感を引き出す手腕。会話の応酬一つ一つとっても見事なタメと間合い、手練れ。画面作りの才覚という点で大島さんはもっと評価されるべき監督なんです。
 しかし大島さんを大島さんたらしめている最大要因はやはり題材への踏み込みですね。これがまた原作との対比によって凄みを発見できるんですよ。原作はごく短く、あたかも森鷗外の歴史短編に近い素っ気なさと深みを感じさせる見事な文体で書かれていますが、そこからはみ出して大島さんが付与した部分にこそ監督の作家的特性が見えます。それはとりもなおさず沖田総司の扱い。本作のフアンの人でも、最後の最後に来て「惣三郎が沖田に懸想していたのだ」という台詞があって、「えっ、そういう描写あったっけ?」って呆気にとられることと思うのです。しかし大島監督は周到に伏線を張っています。そもそも惣三郎の入門試合を相手したのは沖田だし、「井上先生と手合わせしてみなさい。ただし手加減してね」と促すのも沖田。最後に『雨月物語』「菊花の契り」の話を投げかけるのも沖田。実はこれら3つは原作には全く見えないのです。原作の沖田は最後に惣三郎を処断するだけの簡単な役割。その動機は「隊内の風紀を乱す『化け物』惣三郎は始末しなければ後々に禍根を残す」という単純なもので、むしろ近藤や土方こそ惣三郎に心惹かれて複雑な感情を抱いている(だから最後に土方は桜の木を切り倒しておのれの中のモヤモヤしたものを断とうとする訳です)。しかし大島さんはそんな沖田の動機にもっと深いものを持たせたかったのでしょう。「菊花の契り」が体現している「エロスとタナトス」を。大商家の跡取り惣三郎は人を斬る行為に魅せられて新選組に入隊した。だから湯沢を斬り、隊命で田代も斬れるよう工作した(田代に告げた謎の言葉は「もろともに」=「一緒に死のう」だとして制作が進んだようですね)。惣三郎にとって愛されることの返礼は「斬る」ことだった。まさに化け物。そしてそれを手ほどきしたのは沖田だった。新選組という人斬り組織に誘い、「三条磧乱刃」の顛末への端緒を作り、そして惣三郎がエロスとタナトスの化け物へと完熟したのを見届け、最高の快楽を彼に与える。「沖田さん…」うめき声…。それは沖田による「愛された返礼」。死して愛を成就した「菊花の契り」宗右衛門のように遇した。これはエロスとタナトスでべったり塗り固められた『愛のコリーダ』の変奏。最後の土方の桜一刀両断は、吉蔵の男根を切り落とす定を想起させるのです。
 まだまだ本作については語り残したことがあります。例えば井上の語る狐・河童の話や「菊花の契り」が象徴するように、本作は化け物・幽鬼の物語です。そして同時代のD.フィンチャー作品『セブン』『ファイト・クラブ』と軌を一にした「愛すればこそ相手を滅ぼす」物語でもあります。見事すぎる。ミステリアスな空気が立ちこめて、実に深淵で凄艶な傑作に仕上がりました。大島監督、あなたは凄かった。万感の意を捧げて追悼します。

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