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ナインスゲート (1999)

THE NINTH GATE

監督
ロマン・ポランスキー
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3.04 / 評価:600件

「どうしてこうなった?」を楽しむ映画

  • kfe***** さん
  • 2019年12月15日 9時26分
  • 閲覧数 935
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

古より伝えられる悪魔の書。その書の挿絵九枚を全て集めた者は悪魔の世界へと招かれ、この世ならざる力が授けられる。その伝説の書物を集める為、主人公の凄腕の古書探偵は世界中を駆け巡り、やがて本を巡る陰謀の渦に巻き込まれていく。これが本作の荒筋であり、その監督は『戦場のピアニスト』を後に撮る事となる名匠ロマン・ポランスキーで、主演は『シザーハンズ』の名演で名を馳せたジョニー・デップ。ここまで聞けば大方の人は、本作を謎とスリルに満ちた、それを通じて人間の本質を抉る様な、良質のサスペンス映画であると予想するだろう。

しかし残念ながら、本作にはそういう趣きはほとんど、あるいは全く無い。確かに、メインの舞台となる古城の風景だとか、古びた図書室の雰囲気は暗くて重く、サスペンス映画にぴったりの雰囲気を出してはいる。だが、あまりに頻繁に現れる、珍奇かつ極端な演出の数々が(つまりはこれは監督の責任なのだろう)、一切をぶち壊にして行くのである。それは良い意味でも悪い意味でも本作の見所となっている為、一つ一つ列挙していく事とする。

本作第一の疑問は、何と言っても「凄腕古書探偵」なる主人公の設定である。「凄腕」の割には後先の事を何も考えていない様な、杜撰な行動が多すぎるのである。本を巡ってあれだけ血なまぐさい事件が起こっているのなら、「凄腕」でなくとも、ヒットマンの襲撃等を警戒して努めて身を潜めるのが普通であろう。だが、彼にその気配は無く、普通にホテルにとまったり、人通りの多い場所に居たりする(そして、案の定狙われる)。挙句の果てには、大事な本の入った鞄をホテルの冷蔵庫の裏に隠し、「オッシ、これで完璧」と言わんがばかりのしたり顔を浮かべる。この男子中学生並みの「宝物隠蔽テク」披露シーンは、本作の最大の見所の一つであろう。

疑問の第二は、ヒロインの謎の振る舞いである。ヒロインは主人公の前に突如現れて本集めの手助けをするのだが、その方法が首を捻ってしまう物ばかりなのである。その中でも特に不可解だったのが、ヒットマンに襲われた主人公を助けようとした際の彼女の挙動である。現場に駆けつけた彼女は、妙なカンフーの様な構え(両手を鶴の羽根のように広げ、片足を軽くあげた形)でヒットマンをめがけ飛んで行く。文字通り空中浮遊をし、飛んで行くのである。多分監督は、この幻想的な演出でもって「彼女は人間ならざる者。悪魔の書の守り神なのですよ」と提示したかったのだろうが、それまでの前振りが余りに薄く、突飛な観が否めない。その他にも、主人公とアラブの大富豪に変装してスーパーカーで敵を追跡するだの、彼女の絡みの珍奇な演出は非常に多い。

疑問の第三は、殺人描写のグロテスクさである。水死した人にせよ、車椅子の上で殺された人にせよ、目が大きく見開かれたり、舌をだらりとさせたりと、過剰なまでにグロテスクなのである。その果てには「俺は万能だー!」と叫びながら焼け死ぬ人が現れるなど、最早過剰を通り越して、滑稽の域に(漫才でいうボケ)に達している。一種の見せ物小屋である。

この杜撰と珍奇と過剰を目の当たりにした私は当初、本作は観客を笑わせようという意図の下に、一種のコメディー作品として作られたのかもしれない考えもした。しかし、予算・スタッフ・キャストの面から見れば、その可能性(ドブに金を捨てる可能性)は限りなく低いのは明白である。つまり、大真面目にやって「これ」なのである。数年前に流行ったネット用語の「どうしてこうなった?」を、地でいく事態が発生してしまったのである。

名匠が豊富な予算と名優を使ってもこの有様。成功の方程式などこの世にはない。この事実を前に開き直って「未来は分からないのだから、好き放題やろう」と覚悟を決め、趣味全開の尖った作品を作れたのならば、それはその尖り具合故に、何処かの誰かの心に引っかかる可能性が出てくる。出来は良くないが妙な魅力のある怪作・カルト映画として、後世に語り継がれるかもしれない。その逆に、「人気の原作物を映画化して、人気アイドルでも使って客を確保しよう」等と安全策を選んだ暁には、それはその無個性さと無難さ故に、打ち上げ花火の様に一瞬で消えていくだろう。まさに商品として消費されるのである。

本作はまさに、監督の趣味を丸出しにした結果、調和を失ってしまった怪作と呼ぶべき作品である。それを見る事は、監督の「私室」を見る事に通じると、私は思う。観客は「よくこれを晒したなぁ」と(色々な意味で)感嘆しつつ、笑うなり、背を向けるなり、賞賛するなりを勝手にすれば良いのである。芸術とか表現の本質とは、きっと本来そんな物なのだろうから。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 笑える
  • コミカル
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