ここから本文です

石中先生行状記 (1950)

監督
成瀬巳喜男
  • みたいムービー 3
  • みたログ 28

3.80 / 評価:10件

幸福ってなんだろう?

  • nqb******** さん
  • 2012年1月27日 1時28分
  • 閲覧数 672
  • 役立ち度 4
    • 総合評価
    • ★★★★★

3話構成のオムニバス映画。それぞれの話で若い男女の恋模様がユーモラスに描かれているのだが、圧倒的なのどかさ、おおらかさには思わず頬が緩むのをおさえられない。今の感覚でみると信じられないかもしれません。後の成瀬に見られるような、男女のドロドロな関係は描かれていません。とにかく牧歌的。特にこのオムニバスの中でも象徴的だと思われる第3話の「干草ぐるまの巻」について触れたいと思います。お話的には全然なんてことないんです。木村ヨシ子(若山セツ子)は19歳の農家の娘。町の病院に入院している姉の見舞いに行った際によく当たるという評判の入院患者の手相占いで、一両日中に運命の人と出会うといわれる。その帰り道、知り合いの馬車と間違えて干草を積んだ貞作(三船敏郎)の馬車の上で熟睡してしまい、貞作の家まで運ばれる。遅くなるから泊まっていけと貞作の母(飯田蝶子)に勧められるままに世話になるヨシ子。運命の人に出会えたのは明白であった・・・てな感じのお話。

たまらなく可愛いです、このエピソード。最初から最後までニコニコしっぱなし。もうなんてったって三船敏郎ですよ!この映画の白眉は!黒澤作品の豪快なイメージがついて回りますが、この映画では無骨で無口な(ちょっと吃音)農家の長男役を演じています。かたや、若山セツ子はとにかく明るくよく笑う役。全然物怖じしないのであんまりしゃべらない貞作をみて本人に「オシだと思った」なんてシレッと言っちゃう(笑)。最初、髭面で出てくる三船ですが、泊まることになったヨシ子が貞作の母と可笑しそうに話すのを風呂に入って髭を剃りながら聞いていたりします。きれいに髭を剃って、髪も七三に分けて(これがぺたっとしていてまた変)これでみんなが揃い夕食になります。貞作はキセルで煙草を吸いながら、チラチラとヨシ子を見てますがまだこの時点では一言も喋っていません。ヨシ子も貞作が気になり見つめたりするのですが、貞作はあわてて目をそらしちゃったりします。あるとき目が合うと、貞作はニマッと笑うんですが、これがたまらなく可笑しい。三船ってこんな表情するのか~って感じです。主食の後、貞作の母親が祭りだか、盆踊りだかに行くことを勧めます。貞作の弟と三人で行くのですが、村の若い衆が貞作らが若い娘を連れているのを見て「彼女かぁ、貞作?」とからかうと「ぶんなぐっぞ!」若い衆の一人が機転を利かせてセツ子と二人きりにしてあげて「あとでおごれよ」って言うと「この馬の糞!」。初めての台詞がこの二つですよ(笑)

ヨシ子を送る途中、ヨシ子になんかしゃべれや!と言われ貞作はいきなり「歌うか!」といって「青い山脈」を歌いだします。この辺の唐突さがまた笑えます。(~0~)少なくともオイラは三船が映画の中で歌うのは記憶にありませんでしたから、とっても新鮮でこの場面が観られただけでも大満足!三船の歌は飛び切りうまいという訳でもありませんが、下手と言うわけでもありません。なんで青い山脈かと言うと、若山セツ子というのは、実は青い山脈の小暮美千代のメガネの妹役をやってるんですよね。このエピソードの中にも映画館で「青い山脈」を見ているという楽屋落ち的な場面が出てきます。第2話では池辺良と杉葉子も出てたりします。三叉路で「オラ、帰る」というヨシ子を貞作は「家まで送っていく」と言えません。「また遊びにこいや」と言うのが精一杯。去っていくヨシ子の姿を見送る貞作のところに、うまい具合に石中先生が通りかかります。貞作は先生質問があるんですが・・と切り出します。「先生、初めてみたときから、好きになるってことは、い、い、いいこどですか?」この辺の初心さがたまりません。先生に「彼女の家まで送っていくべきだと思うよ」と言われ満面の笑みでヨシ子の後を追っかける貞作。これでエンディング。もうなんとも言えずに幸せ感に包まれます。

昭和25年の時点でこれだけ明るい幸せな映画に仕上げたと言うのは、もしかしたら意図的なものなのかもしれませんね。だって終戦後、まだ5年ですもの。まだまだ混乱することも多かったのではないかと思うのですが、現実の生活では苦労を強いられていた日本人をせめて映画館に来たときぐらいは、日頃の憂さを忘れて楽しい明るい幸せいっぱいなのどかな気分になって帰ってもらおうとした製作側の配慮があったのかな~などと考えてしまいます。逆に言うと、敗戦で何もかも価値観すら百八十度変わってしまう中で、成瀬が古きよき伝統を失ってはいかんという主張を込めたと汲み取れなくもありません。舞台が津軽で急速な変化を必要としない土地を選んだという側面もあるのではないかと・・今となってはそういう穿った見方のひとつもしたくなってくるほど、「幸福」ってなんだろうって考えさせられる映画ではあります。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 笑える
  • 楽しい
  • かわいい
  • コミカル
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ