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紀ノ川 花の巻・文緒の巻 (1966)

監督
中村登
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3.64 / 評価:22件

和歌山県を舞台にした文芸大作

今回取り上げるのは1966年の松竹映画『紀ノ川』。和歌山県を舞台に旧家に嫁いだ女性・真谷花(司葉子)の半生を描く、上映時間が3時間弱にもなる大作だ。時代背景は明治32年から昭和21年までの長きに渡り、題名である紀ノ川は人生の象徴であり花の分身でもある、文字通りの大河ドラマである。なぜ本作のレビューを書き込むかというと、私は90年代の後半を阪神間に住んでいて、和歌山県に何度か足を伸ばした経験があるからだ。

大阪から紀勢本線に乗って和歌山県に差しかかると、車内アナウンスで「女人高野」の説明とともに「有吉佐和子の小説『紀ノ川』でも描かれました」と紹介される。電車で和歌山県に行くたびに同じアナウンスを聞くため、この小説に興味を持つようになった。最近になって、近所の書店で新潮文庫の『紀ノ川』が出ていたので即座に買い、2回にわたって完読した。
小説の最初のほうで「紀州富士と呼ばれる竜門山がかすかに雪を頂いていた」という文章があり、私も竜門山に登ったことがあるので懐かしいと同時に「こんな温暖な地の山に雪が降ることがあるのか」と軽い驚きがあった。私が登ったのは12月の末だったが小春日和で、麓ではヒメアカタテハという蝶が元気に飛んでいたのを鮮明に覚えている。

現代の竜門山ではパラグライダーが盛んに行われており、山頂に寝転がっていると青空の中に沢山のパラグライダーが点々のように見えるのだ。いい上昇気流が吹くのであろう。小説で花が嫁入りのために下った紀ノ川と上空のパラグライダーから見下ろす紀ノ川。同じ川でも見る者の立場によって全く違う姿をしているに違いない。私は小説にも出てきた粉河という駅から紀ノ川に架かる橋を渡ったが、小説を先に読んでいたら川をまた違った感慨を持って見つめたのだろう。

映画は原作をほぼ忠実に映像化しているが、戦後を描いた終末部だけは少し異なっている。原作のラストは昭和33年で、花は老衰して寝たきりになるがまだ生存している。映画の実質的ラストは昭和21年。花の容態急変を告げる孫の華子(有川由紀)の叫び声が聞こえ、主の不在を示すように空になった真谷家の蔵の内部が映し出される。映画ではこの時点で亡くなったと思われる。
もう一つ映画にあって原作にないものでは、終戦直後に台風が和歌山県を直撃する場面がある。花の亡き夫・敬策(田村高廣)の行った治水事業のお陰で紀ノ川は氾濫の危機から救われる。敬策の仕事の陰には花の「紀ノ川を災害のない川にしてほしい。豊かな水を豊かに使わないと水が怒るのではないか」という助言があった。映画としての納まりを良くするために入れたのだろう。

本作は司葉子と岩下志麻のダブル主演になっている。20歳の初々しい花嫁姿から老け役までを一人で演じた司葉子はさすがで、Winkの相田翔子の義母というイメージしか無かった司さんの真の実力を見る思いだった。しっかりした母親の花に何かにつけて反抗する自由奔放な文緒を演じるのが志麻さんで、映画が始まってから1時間ほどで登場する。
女学生姿が凛々しい文緒の袴には沢山の小さなキューピー人形がくっ付いている。これは級友がキューピーの飾りを付けていたのを教師に咎められ、権威への反抗としてやっているのだ。人形といえば花の嫁入りでは、男子を産むようにとの願いを込めて市松人形を持参している。原作を読んでいないと分かりにくいが、人形が親子二人の性格の違いを表しているようで面白い。

男性陣では田村高廣と丹波哲郎が印象深い。田村演じる敬策は、外国野菜のトマトを普及させようとする進取の気性、紀ノ川の洪水に当たっては率先して救援・復旧活動するリーダーシップを持つ好人物で、妻との間に諍いが起こる場面は全くない。ついには国会議員にまで登りつめるが、情勢が不穏を増す昭和初期に急な心臓発作で息を引き取ってしまう。
丹波演じる浩策は敬策の弟で、婚礼の席で花の美貌に一目ぼれしてしまう。頭の良さを持ちながら人望の厚い兄をひがみ何かにつけて衝突するが、そんな彼も母親に反発する文緒とは気が合う。とりわけ人の生命力を紀ノ川に例えて語るシーンは本作を代表する名場面であろう。本作は丹波と志麻さんのアップがとても多く、後に映画やテレビドラマでの大活躍を予感させる。

最後に和歌山の洪水で私が聞いた事を書いてみよう。和歌山県南部のすさみ町の駅前にある食堂で食事をとっていると、店の人が「昔ここも洪水に襲われたのですよ」と話しかけてきて、洪水の時にここまで水が上がって来たと、壁の染みを示してくれた。すさみ町は紀ノ川からは相当離れているが、台風の通り道に近い和歌山県は水害とは切っても切れない関係なのだ。ラストは和歌山城から文緒と華子が市街を見下ろすシーンである。車が通りビルが建ちかけた街並みは昭和40年頃の和歌山市と思われ、貴重な時代資料と言える。

詳細評価

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