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なつかしい風来坊

kih********

4.0

『風来坊』って本当に『なつかしい』ねぇ

 『風来坊』などという言葉そのものが『なつかしい』。ほとんど聞くことがなくなったが、確かにそういう言葉があった。念のために調べてみる。  風来坊=どこからともなくやって来る人。      また、身元が知れず、一つ所にとどまらない人。(デジタル大辞泉)  なるほど、主人公・源五郎がそれか。ま、住所不定、身元不明者ということか。彼には前科があった。酒癖がよくない。それでも、どこか人懐っこい。憎めない『坊』。  主人公はハナ肇演じる『風来坊』だろうけど、私には、最初から最後まで有島一郎が演じる早乙女良吉が中心人物だ。風来坊はやり過ぎ、悪乗り、度が過ぎると憎たらしくなりかねない。それを意識的に限界を超えさせたのが『寅さん』。  良吉のペーソスは味わい深い。ただ、痔疾を患わせるのもちょっとやり過ぎ。そうでなくても(そうでない方が)、ペーソス官吏 とノー天気風来坊の対比が自然に演出される。良吉の単身赴任に関わる家族の対応が滑稽なまでに面白い。現代の風刺だ。列車の中での良吉と風来坊の『なつかしい』再開が面白い。もはや『風来坊』ではなく身を固めた源五郎、これがそこそこの幸せな落ち着き先だった。  多くの国民に受けるのは確か。しかし、風来坊を寅さんに代え、小役人宅を饅頭屋に代えてロングシリーズにした途端に面白味がなくなった。当面のウケを狙い過ぎたのだろう。ロングランのためにロードムービーにする。その都度マドンナ役を入れる。失恋で終わり次の旅に出る。すべて、この『風来坊』がウケたので、これを発展させたのだろう。私には、この風来坊が、いや有島一郎が、いや早乙女良吉が一番親しみやすい。早く痔疾を完治して、気持ちよく酒が飲めるようになるべし。単身赴任先で、ちょいと浮気のひとつでも楽しんだらいい。つつましいながら、風来坊気分を楽しんだらいい。

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